コード・オッカム
山口優
序章 事故
西暦二〇三X年。
ひしゃげた自動車の中で、後部座席に座る少女は自分の状態が全く分からないまま、それでも残っている右目の視界で割れた窓ガラスの外を見つめていた。
降りしきる雪の中、ランドセルの小学生たちがずっと向こうを歩いている。音のない空間で、幻影のようにも見える子供たちの姿が、少女に何が起ったのかを悟らせた。
(ああ……そうか……あの子たちを護ったのか)
右目の視界を車の前方、自動運転コンソールに戻す。青緑色に点滅しつつ、合成音声を発する。
「救急車を呼んでいます。しばらくお待ちください。救急車を呼んでいます。しばらくお待ちください」
ありがとう――助けてくれたのね。
と、言おうとしたが声が出ない。
足も手も動かない。
「本車の燃料漏れを検知。エンジン点火不可。事故の影響により爆発のリスクが危険域に。バッテリー残量五%。大変申し訳ございません。本車はこれ以上あなたの安全を維持できません。ドアを開きます。本車の傾斜により、脱出が可能です」
次の瞬間、後部座席のドアが開いた。
ごろりと外に転がり落ちた。寒さも痛みも感じない。モーター音が響く。路上の少女を丁寧に避けつつ、自動運転車はゆっくりと動き出した。凍てついた路上、慎重に、ゆっくりと進みながら、崖に向かっていく。
ガードレールに衝突。
はじき返される。
もう一度衝突。ガードレールを破った。
ゆっくりとバランスが崩れる。崩れきった瞬間、自動運転車は、崖の下に落ちていく。
直後。
巨大な爆発が響いた。
(ありがとう……)
少女は、もう一度思った。
救急車の音が、遠くから聞こえてくる。
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