第68話

『平気だよ。今日、うんと我が儘聞いてもらうから』




と、笑顔を見せた。




『ははっ。覚悟しとく』




俊ちゃんは胸がキュンとする様な笑顔で応えて、ゆっくりと車を発車させた。




運転する俊ちゃんを横目で見つめながら考える。




本当はディズニーに行く約束だった。




でも、今日行っても心から楽しめないって確信してるあたしがいて。




申し訳なさを抱きながら俊ちゃんを見つめるあたしに気付いたのか、タイミングよく赤信号に引っ掛かった俊ちゃんがあたしの方を向いて口を開く。




『どうする?このままディズニー向かう?』




その問い掛けに、あたしは笑顔を貼り付けて、




『考えたんだけど、来月あたし誕生日だから、ディズニーはその時までお預けにしようかなって』




と答えた。




その場凌ぎの答えだなんて微塵も思わないだろう俊ちゃんは、一瞬だけ不思議そうな顔をして、直後には穏やかに微笑んだ。




『分かった。じゃあ、その日は何がなんでも休みとらなきゃな』




そう応える俊ちゃんの微笑みに、胸がチクリと痛む。




(ごめんね俊ちゃん)




心の中で謝罪しながら、




『約束ね?ディズニー行って、ホテルのディナー食べて、オシャレなバーでおいしいカクテル飲みたいの』




と、先日1人で妄想したプランをおねだりする。




『了解。とっておきの場所、リサーチしとくよ』




と、笑顔で応えてくれた俊ちゃん。




その直後、信号が青に変わって、車は再び静かに発進した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る