クソデブ悪役令息のドキドキ(心拍数危険域)暗殺術ダイエット〜ストーリー無視して暗殺者ムーブしてたら舞台をひっくり返してました

太田栗栖(おおたくりす)

第1話

「お父様!私は嫌ですわ!」


 国中の貴族が集う至高の晩餐会。美酒美食、贅の限りを尽くした華やかな場を一つの声が引き裂いた。誰もが言葉を失ってその声の主を見た。


 悲痛な叫び声をあげたのはこの夜会の主役、エルネスタ=フォン=アルカディア。アルカディア王国の第二王女だ。

 今日十歳を迎えたばかりの王女は、とても可愛らしい容姿をしていた。小さく華奢な様はまるでお人形のよう。金に輝くサラサラな髪は一切の癖なく肩まで伸びている。


 そんな可愛らしい王女を泣かせたのは何か。それは―――


「ディオン君とは結婚したくありませんわ!!」


 エルネスタが指差した先には、豪華な机に並べられた食事に手を伸ばす一人の少年がいた。


 締まりの無い―――というより弛みすぎてどうしようもない体。とんでもない量の肉を蓄えた腕や太腿は大木の幹のようで、自身の油でテラテラ光る顔は異様な雰囲気に包まれている。綺麗な銀色の髪もギトギトだ。

 それだけ太っていながらも顔のパーツは整っているため痩せれば見れないこともないのだろうが、小さな肉の固まりは正に化け物の様相であった。王宮という温室で育ってきたエルネスタからすれば、モンスターもいいところだろう。


「え、俺?」


 皆の注目を浴びて、ようやく食べ物から顔をあげるディオン。口回りが食べカスで汚い。


「そうですっ。お父様、今一度お考え直し下さい!私はディオン君とは婚約出来ませんわ!」


「確かに、少々酷であろうな」


 愛娘にここまで泣き付かれ、政略で決められた結婚に難色を示す国王。


「えっ」


 ディオンの手からお菓子が落ちた。それを見て豚と罵り笑う他の令嬢たち。

 この場に集まった多くの貴族家の当主たちも冷めた眼で、あるいは侮蔑するような眼で、ディオンを見つめる。


 ディオン=フォン=ミリタニア。

 ミリタニア公爵家の長男であるディオンとエルネスタの婚約には、家の格的な問題はない。政治的問題もなく、派閥も同じ。唯一の問題点は、容姿だけなのだ。そしてその一つが、あまりにも大きすぎた。


 この日、ディオンは婚約破棄された。



 それから二日後。


 ミリタニア公爵領に戻ったディオンは、一家に泥を塗った罰として、離れに軟禁されていた。貴族としての最低限の振る舞いすら出来ないディオンを、父や義母は元から嫌っていた。故に、その処置はすぐに取られた。


 ーーーディオンの中身が入れ替わっていることに、誰も気付くことのないまま。


「は? ありゃ? 何この身体。俺どーなってんの?」


 その中に日本国産マヂキチイカレポンチが入っていることは、まだ誰も知らない。

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