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「あとね。裏メニューがあるんだけど知ってる?」とひそひそと話すようにして、ちょっとだけ私のほうに身を乗り出すようにしながら、君は言った。
「え? 裏メニュー?」私は驚いて言った。思わず動揺して飲んでいたアイスコーヒーをこぼしそうになってしまった。
「うん。裏メニュー。あ、でも裏メニューって言ってもすごいことじゃなくてね、このお店。スパゲッティーのメニューは全部スープスパゲッティーでしょ? でもねお願いするとね、このペペロンチーノなんだけど、にんにくと鷹の爪だけの簡単な大盛りペペロンチーノ辛め、スープなし、って言うスープスパゲッティーじゃない普通の大盛りスパゲッティーが頼めるんだよ。熱いスープが苦手な猫舌の人なんかのためのメニューなんだって。ほかのスパゲッティーはだめなんだけど、ペペロンチーノだけはスープなしにしてくれるの」と君は言った。
私は猫舌だったので確かにスープがすごく熱かったらどうしよう? と心配になったこともあった。(そんなに熱いスープのわけないと思ったけど)
「もちろんそんなに舌をやけどするくらい熱々ってわけじゃないんだけど、ぬるめの美味しいスープだけど、その裏メニューを最初に注文した人はね、前に熱い食べもので舌を火傷したことがあって、念のため確認したんだって。それに、もともとスープスパゲッティーが苦手って人もいるのかもしれないしね。スープなしってできますか? って聞かれて作ることにしたんだって。まあ、ただペペロンチーノがすごく辛くって違う意味で、その人は舌を痛めたみたいなんだけどね」とおかしそうに笑って君は言った。
「なんでそんなこと知ってるの?」と私はアイスコーヒーを飲みながら驚いたか顔をして言った。(まだ、お店に通うようになって一週間なのに)
「店員さんに聞いたの。もしかして裏メニューとかってありますかって。スープスパゲッティーがすごく美味しかったから」と君はホットココアを飲んでから私に言った。(ホットココアの上にのっている生クリームが上のくちびるについていた)
私は君の言っている裏メニューのペペロンチーノがすごく食べてみたくなった。でもそれはきっと一生できないだろう。裏メニューの注文なんて、絶対にできない。……、私にはちょっとだけ大人すぎた。
結局私はその日、君になにも言えないままで、いつものように(アイスコーヒーが美味しかったから)ごきげんな気持ちになって、「ごちそうさまでした」と言って、恋する火星の家出をあとにした。(その日の帰り道は途中まで君と一緒に帰った。君は私に笑顔で「ばいばい」と言って、家に帰っていった)
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