恋する火星の家出

雨世界

1 ……、ばか。

 恋する火星の家出


 ……、ばか。


 君と出会ったのは、よく通っている実家の近くにある喫茶店の中だった。そこはとても静かで落ち着いたとっても美味しいコーヒーを飲むことができる古風な雰囲気のある喫茶店だった。

 この喫茶店は私が世界で一番安心してくつろいでいられる空間だった。人によってそう言うその人の聖域のようは場所は違うと思うけど、今の私にとってはこの喫茶店は間違いなく私の聖域だった。(とても大切な場所だった)

 今日も私は高校が終わったあとに一人で喫茶店でお気に入りのアイスコーヒーを飲んでいた。私は(いつもの安心する味がする)アイスコーヒーを飲んで、幸せだな、としみじみと思った。(高校の勉強とかお友達との関係とか、両親との会話とか、まあいろいろと疲れるのだ)

 その喫茶店の名前は少し変わっていて、(あるいは私が詳しくないだけで、こんな名前の喫茶店もよくあるのかもしれないけれど)『恋する火星の家出』という名前の喫茶店だった。私はどうしてこんな変わった名前をお店の名前にしたのかお店の人に聞いてみたかったのだけど、どきどきするので、まだ今のところは聞くことはできていなかった。

 古風で静かで少し暗くて音楽は小さくてアイスコーヒーはとても美味しい喫茶店だったけど、どこにも恋とか火星とか家出とかそんな言葉を連想するようなものはなかった。(と思う)あくまで普通の喫茶店だった。メニューにも惑星や宇宙を想像させるようなものはなかった。(あったら絶対に注文した)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る