片道切符

はると

天地の列車

 連帯責任だと、そう言われた。被害者である私までもが犯人扱いされるこんな待遇があっていいのだろうか。しかし真犯人もまた、連帯責任と言われて済んだのだ。それは何故か、私には分からなかった。


 それは今年に入ってからのことだ。梅雨が訪れ、授業中に外の音が気になるほどの雨が降っていた日だった。

 体育の授業から教室へ戻ったら、そこにはあるはずものもが『全て』無くなっていた。机、椅子、カバン、何もかもだ。着替えるための制服さえも、無くなっていた。

 教室に入って数秒沈み返ったが、耳を傾けてみたら今何が起こっているのか、私にはよく分かった。

 これはいじめだと、すぐに理解できた。机が戻ってきたと思えば暴言などの落書き付き。さらには、カバンの中のスマホは窓に向かって投げられて、画面と窓ガラスが割れた。

 くすくすと笑う女子もいれば声を上げて笑う男子もいた。クラス内での私の立場は、もうどこにもなかった。


「もう死んじゃえば〜?」

そんな事を言われたのは初めてじゃなかった。毎日どこかで、口で言われずとも落書きや陰口などのあらゆる形で、私に伝わってきていた。

 しかし、耐えきれなくなったことは1度もない。なにせ、先生が怒鳴るほどに毎回怒ってくれているからだ。私をいじめてきた奴らが先生に指導されているところを見ることが、いじめられるというストレスを覆い隠す程の爽快感を感じられるからだ。

 1日に1回、多くて2回指導を受ける奴もいた。反省の色が全くない奴らは、今日も私をどん底へと突き落としていた。


 トイレに入ればドアの上から水が降ってくるし、教室に戻れば居場所は無い。帰り道だって家をつけられて家の扉にスプレーで落書きを書かれる。そんな毎日である。



「天地の列車っていうのがあるんだけど、どうかな?」

 とある春の日。小さい頃から仲良くさせてもらっている神社の神主さんが私にそう言った。毎日のように学校での出来事を伝えいた。私は苦笑いしながら世間話のように話しているがこの人は違うようだった。

「天地の列車?」

「そうだよ。君の行きたい所へ連れていってくれるんだ。」


 私の行きたい場所。特に想像できる場所もなかったし、訳の分からないことを話していたので適当に話を流していた。


「そろそろ帰るね」

「気をつけて」


 その日は珍しく服が濡れていなかった日だったので体が軽い。帰り道に誰かに絡まれるのも嫌だったので少し駆け足で家へと走った。


 家に帰ったら毎度母親がすぐに駆けつけてくる。私へのいじめがある日は必ず先生から電話がいくから、それを聞く母は私を心配する。

「大丈夫?今日は先生からの連絡は無かったけれど?」


 は?と不思議に思う。今日は水こそかけられていないが、私物が消えてスマホを割られた。そのうえ、私のスマホで窓ガラスを割った奴がいたのだ。普通は連絡するはずなのに。

『連帯責任だ。』


 その言葉が頭の片隅に浮き上がる。いつも私に優しかった先生は今日はなぜだか私にもあいつらと一緒に怒ったのだ。何故か、とも思ったが指導中はあまり話を聞いていなかったので深く考えないようにしていたが…。連絡が無いことになにか関係あるのだろうか。


「大丈夫、今日は何もなかったから。」

 嘘をついて、私はすぐに自分の部屋に入る。


 疲れが限界まで来ていた。いくら私をいじめてくる奴らが指導を受けていて、いくら私が爽快感を得たとしても疲れは溜まる。心と体の疲れが最近の小さな悩みのひとつである。


 私は、夕食を食べる前にすぐにベットで眠ってしまった。

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