第24話 経験豊富な月凪さんの意見をお聞かせいただいても?
慰労会から数日後の朝。
俺たちが教室に着くと、廊下に人だかりができていた。
彼らの目当ては今回のテストでの得点上位者の一覧だ。
今時古い気もするが、清明台高校ではテストのたびに廊下に上位者の名前と点数、順位が張り出される。
それを一目見ようと朝早くから集まっている訳だ。
まあ、俺たちもそれ目的なのだが。
「緊張しますか?」
「多少な。じたばたしても結果が変わらないのはわかってるけど、実際の結果を確認するまではどうしても緊張する」
俺に尋ねる月凪は至って自然体。
いつも通りの雰囲気に、波立っていた心が落ち着く。
「ですが……人が多すぎて見えませんね」
「俺が見てきてもいいけど一緒の方がいいか」
「そうですね、少し待ちましょうか。こうなることを見越して時間の余裕をもってきていますし」
「とは言っても、声は耳に入ってくるんだよな」
人だかりから届く話し声の中には、月凪の名前が何度も出ていた。
「白藤さん今回も一位かよ」
「すげーな、流石は才女様」
「一位維持記録また伸びたな」
「……私の結果はそういうことみたいですね」
「らしいな。おめでとう」
「ありがとうございます。けれど……珀琥と一緒に結果を確認したかったので、意図せずネタバレされた気分です。怒ったりはしていませんけどね。仕方ないことですし、悪気はないでしょうから」
月凪はほんの僅かだけ不満げな雰囲気を漂わせながらも口にする。
表情の起伏は少ないけど、これは本当に怒っていないときのやつだ。
「それよりも、気になるのは珀琥の順位です」
「月凪の結果を前座にするつもりはなかったんだがな。でも、自己採点的には結構厳しいぞ。俺の結果よりも他の人の結果にかかっているって意味で」
しばらく待っていると、人だかりが少しはけてくる。
その隙を狙って張り紙を見れるポジションに陣取り、記載されている名前を上から二人で確認していく。
一番上には当然のように輝く『白藤月凪』の名前と、一位という順位。
点数は驚異の491点……全教科ほぼ満点じゃないと取れない総合点だ。
二位にも十点以上の差をつけていて、圧倒的な頂点として君臨していた。
そこから下へ下へと視線を動かしていく。
張り紙の名簿は五十位まで。
関りの薄い名前を素通りして、自分の名前だけを探し――
「あ」
最後まで見終え、声が漏れる。
『桑染珀琥 五十位 412点』
無言で握られた左手から伝わる柔らかな感触と、やや冷たい体温。
それに引かれて向き直れば、薄っすらと笑みを浮かべた月凪の顔があって。
「おめでとうございます、珀琥」
その祝福の言葉を聞いた途端に、遅れて形容しがたい感情が湧き上がった。
大きな割合を占めるのは自分が立てた目標を達成できたことへの嬉しさと、月凪の期待を裏切らずに済んだことへの安堵。
「……ありがとう、月凪。勉強に付き合ってもらったお陰だな」
「私の助力は微々たるものです。これは珀琥が努力し、掴んだ結果なんですから、もっと誇らしくしてください」
月凪がそういう言葉回しを選んだのは、俺に自信を付けさせるためか。
一度目ならまぐれの可能性だってある。
次も同じだけの成績を取れてこそ実力と言えるだろう。
それでも今だけは喜んでもいいのだと、月凪は俺に示してくれている。
「無事に二人で目標達成出来てよかったです。どっちかだけがいたたまれない気持ちになるのだけは避けたかったですから」
「それはそれで慰めるつもりだったんじゃないか?」
「そうですけど? 頑張ったのにご褒美がないなんて次への気力が薄れてしまうじゃないですか。そのためにわざわざネット通販でメイド服まで買ったんですからね」
……え?
目標達成できなくても頑張りを労うってところまでは理解できるけど、メイド服?
それをわざわざ買ったってことは月凪が着るつもりだったんだよな?
間違っても俺に着せるつもりで買ったわけじゃないと願いたい。
「とりあえず、ご褒美の件は帰ってから相談しましょうか」
「……ああ、そうだな」
「珀琥が望むならメイド服を着てご奉仕を――とかでもいいですけど」
「…………考えておくわ」
かなり魅力的な提案だっただけにすっぱり断り切れず、保留としておく。
……月凪のメイド服姿、どう考えても似合うだろうな。
ご奉仕なんてそういう妄想を掻き立てられる言葉をちらつかせられて、心が揺らいだわけでは……いやごめん正直かなり揺らいだ。
その後の授業はどこか浮かれた気分で受けることになったが、大半がテストの返却と解説だったため、大きな問題にはならなかった。
どうやら今回は全体的に難しかったらしく、平均点も下がっているとのこと。
だから俺がギリギリ五十位に滑り込めたのだろう。
そして放課後を迎え、帰ろうかと下駄箱で靴を履き替えようとしたのだが――
「……なんだこれ」
「どうかしました?」
「下駄箱に手紙が――」
俺が見つけたのは、丁寧に折り畳まれた手紙。
表紙には『桑染珀琥さんへ』と宛名がやや丸い文字で書かれている。
これと似たようなものを、俺はよく目にしている。
「……珀琥」
月凪の呟きは静かで抑揚がなかった。
表情も非常に淡泊で、顔色はどこか青白さすら伴っている。
そして、震えた手が俺へ――厳密には、俺が持っている手紙へ伸びていて。
「中には、なんて書かれていたのでしょうか」
「……確かめるか」
もしかすると、予想とは違うかもしれない。
果たし状とか、決闘状とか……決闘は法律的に拙いんだっけ?
……なんて益のない思考をしてしまうくらいには気が動転していた。
それでも畳まれた手紙を開き、書かれていた文面に目を通す。
『珀琥さんにお話したいことがあります。明日の放課後、校舎裏まで来てもらえませんか?』
宛名と同じく丸みを帯びた文字で書かれた文面は、もはや
「……経験豊富な月凪さんの意見をお聞かせいただいても?」
「……………………現状、手紙が届けられた状況や文字の雰囲気、文面、指定された日時と場所の要素を考えると、告白である可能性が高いと思われます」
やけに長い沈黙の後に不機嫌そうな声音で答えられた内容を聞いて、俺は思わず顔を覆ってしまうのだった。
―――
ご機嫌からの超不機嫌
こんなの見てしまったら攻めるしかないじゃんね(?)
やはり星は欲しいと素直に言うべきなのか……こんなに入ると思ってなかったんです。ありがとうございます!!入れてない方は是非お願いします!!
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