48 和平への道筋
アルバナ王国の首都では、緊張感に満ちた会議が連日行われていた。トリスタンから密かに送られた使者が、和平交渉の意志を伝えたことで、戦争終結の可能性が現実味を帯びていたのだ。しかし、この交渉をただの終戦で終わらせるつもりは、誰一人としてなかった。
「戦争を終わらせるだけでは足りません。」
翔が静かに発言を切り出した。部屋の中央に置かれた長机を囲む幕僚たちの視線が一斉に彼に注がれる。
「トリスタンを経済的にも軍事的にも再起不能にするため、国際的な枠組みを作るべきです。それが新たな戦争の発生を防ぎ、復興を進めるための最善の手段です。」
その言葉に、一瞬の沈黙が訪れた。フリーデリケがその場を支配するようにゆっくりと口を開く。
「翔の意見に同意します。しかし、あまりに厳しい条件を突きつければ、トリスタンが反発するだけではなく、我々の同盟国も不満を抱くことになるでしょう。」
彼女の言葉に頷きながら、経済顧問のリュディガーが懸念を口にした。
「賠償金の問題はどうお考えですか?相互に賠償を求めないとして、国民が納得するでしょうか。」
翔は間髪を入れずに答えた。
「賠償金を求めれば、トリスタン経済をさらに圧迫し、新たな火種を生むだけです。それよりも、非軍事化を確実に進め、国際的な監視機関を設置する方が長期的な利益になります。」
フリーデリケは机に広げられた草案に目を落とした。翔や他の幕僚たちの意見を反映しつつ、最終的な条件を整理していく。
1.領土割譲
トリスタンの一部領土をアルバナ同盟側に引き渡す。ただし、住民への影響を最小限に抑えるため、具体的な行政措置を含む計画を策定する。
2.軍備制限
トリスタン軍の兵力と装備の保有を厳しく制限し、新たな軍事的脅威を排除する。
3.賠償金の放棄
相互に賠償金を求めず、経済復興を優先する。これにより、新たな反目の芽を摘み取る。
4.国際監視機関の設立
トリスタン国内の非軍事化を監視するため、国際機関を設立。アルバナを含む複数国が参加し、公正な運営を保証する。
フリーデリケは顔を上げ、周囲の顔を見渡した。
「これが我々の和平条件案です。長期的な安定を目指すには、同盟国との調整が必要不可欠ですが、このラインを譲るわけにはいきません。」
翔が頷きながら言葉を継ぐ。
「ここで中途半端な決着をつければ、次の戦争の準備をしているに過ぎません。我々は戦争を終えるだけでなく、未来の平和を築く責任がある。」
数日後、アルバナに集結した同盟国の代表たちとの協議が開始された。会議の冒頭、フリーデリケが自信に満ちた声で提案を説明する。
「この条件は、アルバナだけでなく、全ての同盟国が恩恵を受けられる内容になっています。同時に、トリスタンとの長期的な安定を可能にするでしょう。」
同盟国の一つ、ノルデン王国の外務大臣が疑念を口にする。
「賠償金を求めないという点に、国民が納得するかは疑問です。我々の犠牲に見合う対価が必要では?」
フリーデリケは迷うことなく応じた。
「対価とは、国際社会における長期的な秩序と安定です。賠償金よりも確実な平和を手にすることこそ、真の勝利だと信じます。」
彼女の説得力ある言葉に、会場が再び沈黙に包まれる。やがて、賛同の声が少しずつ上がり始めた。
アルバナが主導する和平条件案は同盟国の承認を得て、最終段階に入った。トリスタン側との正式な交渉の場が設けられるまで、時間はほとんど残されていない。
「フリーデ、この案でトリスタンは受け入れるだろうか。」
翔がふと尋ねる。
「受け入れさせるのよ。」フリーデリケの表情に決意が宿る。「それが私たちの役目でしょう。」
外では冬の冷たい風が吹き荒れていたが、彼らの中には揺るぎない信念の炎が燃え続けていた。
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