45 揺らぐ指揮系統
トリスタンの軍事行動に不自然な点が見られると報告が上がってきたのは、アルバナ王国の本部での静かな朝だった。翔とフリーデリケはすでに机に広げられた地図や書類に目を通しながら、最近の戦況を確認していた。
「お二人とも、これをご覧ください。」
リリスが資料を手に部屋に入ってくる。彼女の声には確信がこもり、その目は鋭い光を宿していた。
「何か見つけたのか?」
翔が顔を上げて尋ねる。
リリスは大きな地図の中央に赤い印をつけると、指でその周辺をなぞった。
「トリスタン軍の通信の動きです。ある地点で極端に連絡が遅れている。ここに何か問題があるのは間違いありません。それに、最近敵の部隊が特定のルートを外れて進んでいるのも妙です。」
フリーデリケが地図に視線を落とし、顎に手を当てる。
「たしかに、通常なら重要な補給路を優先するはず。意図的に避けているとすれば、このルートが何らかの障害になっているのかもしれない。」
リリスは微笑むと、続けた。
「それだけじゃない。トリスタン側の指揮系統にも不安定さが見えるわ。私が調べたところ、彼らの通信設備には問題がある可能性が高い。それを利用すれば、混乱を引き起こせるかもしれない。」
翔は腕を組んで考え込む。
「具体的にはどうするんだ?」
リリスは迷いなく答えた。
「まず、通信施設を妨害する。特殊部隊を潜入させて電波妨害装置を仕掛け、敵の連絡網を遮断するのよ。そのうえで、こちらから偽の情報を流し込む。例えば、敵部隊を撤退させるような命令を装って送ることで、戦線が崩壊する可能性がある。」
フリーデリケが深く頷いた。
「作戦としては理にかなっているわね。だが、敵が反撃してきた場合はどうする?」
リリスは自信ありげに笑みを浮かべた。
「心配はいらないわ。その場合はこちらも動揺を誘う策を講じている。偽情報を複数送り込めば、どれが本当の命令か分からなくなるでしょう。」
翔は彼女の提案をしばらく考え、決断を下した。
「分かった。この作戦を採用しよう。ただし、最善の準備を整えたうえで実行する。失敗は許されない。」
作戦実行の日、リリスが立案した計画は着実に進んでいった。特殊部隊がトリスタンの通信施設に潜入し、電波妨害装置を仕掛けると、敵の指揮系統は瞬く間に混乱に陥った。各部隊は上層部との連絡を失い、誤った判断を下す状況が次々に生じた。
一方、アルバナ本部では続々と届く報告に目を通していた翔が眉をひそめた。
「作戦はうまくいっているようだが、敵の反応が気になる。反撃に出る可能性は?」
リリスが肩をすくめて言う。
「その場合はこちらが準備しているデマ情報を最大限活用するだけ。敵が誤情報に踊らされる限り、こちらが有利だわ。」
フリーデリケが彼女の発言に付け加えた。
「ただ、油断は禁物よ。トリスタンも優秀な人材が揃っているはず。すぐに対策を講じてくるでしょう。」
そのとき、通信士が部屋に駆け込んできた。
「報告!偽情報が効果を発揮し、敵部隊の一部が撤退を開始しました!」
リリスは笑みを浮かべた。
「ほら見たことか。計画通りよ。」
翔は微笑を返しながらも、慎重に言葉を選んだ。
「確かに順調だ。しかし、この戦争はまだ終わっていない。次の手を考える必要がある。」
フリーデリケが地図を指さし、新たな進軍ルートを提案する。リリスもその提案に賛同し、さらなる計画の詰めが行われた。
作戦は成功し、トリスタン軍は内部から崩壊しつつあった。しかし、戦争全体の行方はまだ予断を許さない。翔とフリーデリケ、そしてリリスは、それぞれの役割を果たしながら、新たな局面に備えるのだった。
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