15 ノルテン要塞、血染めの決戦
翔はレヒナー司令官との作戦会議に参加した。彼はフリーデリケの隣に立ち、真剣な表情で司令官の説明に耳を傾けた。
「我々の戦力はルドルフ伯爵の軍を上回っています。兵の数でも、武器の質でも勝っていますが、問題は彼の拠点です。ノルテンにある要塞は非常に堅固で、通常の攻撃では容易に落とせません。恐らく籠城戦になるでしょう。彼は時間を稼ぎ、ゼルトン国との連携を狙っている可能性があります。」
翔はしばし考え込んだ。籠城戦となれば、長期戦になり国力が消耗する恐れがあった。戦況が長引けば、他の貴族たちがルドルフ伯爵に同調する危険もある。何とか早くこの反乱を終結させる方法はないだろうか。
「一つ提案があります。」
翔は静かに言葉を発した。
司令官とフリーデリケが彼に視線を向ける。
「領民も要塞へ追い込んでほしいんです。」
フリーデリケは驚きの表情を浮かべた。
「領民を追い込む…ですか?」
翔は頷き、熱意を込めて続けた。
「はい。もしルドルフ伯爵の拠点に領民が押し寄せれば、彼の兵士たちも内部から圧迫されます。食糧や物資の供給が滞り、籠城戦が長引くほど彼らの士気は低下するはずです。それに、領民が集まれば、彼の軍勢の心も揺らぐでしょう。」
司令官のクラウス・レヒナーは考え込んだ様子で頷いた。
「確かに、敵の士気を削ぐ効果が期待できるかもしれません。しかし、領民を巻き込むことには危険も伴います。彼らが戦闘に巻き込まれれば、無関係な人々が傷つく可能性もあります。」
翔はその意見に理解を示しつつ、静かに強い意志を持って言葉を続けた。
「もちろん、それは最も避けたい事態です。しかし、王国の未来を考えると、今は全ての手段を尽くす必要があります。私たちが行動を起こさなければ、ルドルフ伯爵の反乱は続き、さらなる混乱を招くでしょう。この反乱が長引けば、もっと多くの血が流れます。早期の終結こそ、最善の策です。」
フリーデリケは再び言葉を切り出した。
「それでも物資は豊富に用意されているでしょうし、兵糧攻めは時間がかかるのではないでしょうか?」
翔はゆっくりと頷きながら答えた。
「それも考慮しています。物資が豊富であるなら、逆にその消耗を早めればいい。領民を要塞内に追い込むことで、食糧を早く浪費させるのです。物資の豊富さが逆に弱点となるでしょう。彼らが持ちこたえる期間は短くなるはずです。」
フリーデリケは目を見開いた。
「兵糧攻めを加速させるというわけですね。しかし、それは非常に残酷な戦法です。」
翔は続けた。
「確かに残酷な戦法です。しかし、要塞内に余裕がある今こそ、彼らの体力を奪い、早く疲弊させる必要があります。あの要塞の堅固さは周知の事実ですが、内側から崩壊させることができるのです。」
クラウス・レヒナーが補足した。
「翔の考えには一理あります。物資を浪費させ、内部からの圧迫をかけることで、ルドルフ伯爵の勢力を揺るがせることができるかもしれません。」
翔の提案は確かに残酷だったが、国を守るためには現実的な手段を取らざるを得ない。しばらくの沈黙の後、彼女は決断を下した。
「では、翔の提案を採用しましょう。領民を要塞へ向かわせ、ルドルフ伯爵の拠点を包囲します。ただし、彼らの安全を最優先に考え、避難する手立ても用意しましょう。」
その言葉に、翔は安堵の表情を浮かべた。彼の提案が受け入れられ、反乱を鎮圧するための具体的な行動が始まろうとしていた。
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