08 流れた軍の物資
翔はエリスと共に、朝の市場を見て回るのが日課になっていた。
朝日がゆっくりと王都の石畳の道を照らし、穏やかな空気が漂う中、翔とエリスは市場へと向かって歩いていた。エリスはその日の天気について軽く口を開いた。
「今日もいい天気ですね、翔様。王都はこんな穏やかな朝が続けばいいのですが…」
翔は空を見上げながら、軽く頷く。「そうだな。でも、今の状況を考えると、平和がいつまで続くかわからない。」
エリスは少し考え込むように歩調を合わせた。「戦争が長引いていると、市場にも影響が出ているのでしょうか。最近、商人たちも元気がないように見えます。」
翔はエリスの言葉に同意する。「確かに、市場は少しずつ変わってきてる。物の流れも悪くなっているし、みんなが必要なものを簡単に手に入れられなくなっているのかもしれない。」
「そうですね…。戦争の影響は、思ったよりも深く浸透しているのでしょう。王宮の外では、どんなに小さな変化でも人々にとっては大きな問題です。」
翔は静かに考え込みながら言った。「そうだな。外の世界をしっかり見ておくのも大事だ。だからこそ、こうして市場を見て回るのも重要なんだよ。」
エリスは頷き、少し微笑んだ。「翔様は、こうして毎朝市場を歩くことで、王宮の中だけでは見えないことをしっかりと感じているんですね。」
「そういうことだ。王宮の中で書類を見ているだけじゃ、実際の状況はわからないからな。目で見て、耳で聞いて、足で感じることが重要なんだ。」翔はエリスに視線を向け、柔らかい笑顔を浮かべた。
エリスも微笑みを返しつつ、何かを思い出したように話を続けた。「そういえば、最近市場で見かける商人たち、以前と少し様子が違うように感じるんです。特に、物の質が変わったような気がして…」
翔はエリスの言葉に耳を傾けた。「物の質?具体的に何が変わったんだ?」
「少し古びた感じのものが増えてきているんです。特に食糧や布地。戦争で物資が足りなくなっているのかもしれませんが、それにしては妙な感じがします。」
翔はその言葉に考えを巡らせながら頷いた。「なるほど…戦争が長引くことで、物資の流通が滞っているのかもしれないな。それに伴って質の悪いものが市場に出回っているのかも。」
エリスが小さくため息をついた。「それが、戦争の影響だとしたら、もっと深刻な問題かもしれませんね…」
翔はふと足を止め、エリスに優しく声をかけた。「だからこそ、俺たちがしっかりと見極めて、何が起きているのか把握しなければならないんだ。」
エリスはその言葉に勇気づけられたように、しっかりと翔の目を見てうなずいた。「はい、翔様。私もお供いたします。」
そして二人は市場の入り口にたどり着いた。普段よりも静かな市場が、いつもとは違う様子で彼らを迎えた。活気に満ちているはずの場所には、どこか落ち着いた、慎ましやかな雰囲気が漂っている。店を開けている商人たちも、静かに商品を並べ、まばらに通り過ぎる客にさりげなく目を向けているだけだ。
「これ、見てください。」エリスが指さした先には、軍の物資のように見える装備品や食糧が並んでいた。
「この装備品、軍用じゃないか?」翔は眉をひそめ、興味深げに商品を見つめる。そのまま店の商人に近づき、さりげなく尋ねた。
「この食糧、どこで手に入れた?」
商人は笑顔を浮かべながら答える。「ああ、これはオステリアからの行商人が持ってきたものだよ。品質がいいし、保存も利く。戦争中でみんな備蓄を求めてるからね、すこし高いがよく売れてるよ。」
「オステリアからか…」翔はちらりとエリスに目をやり、微妙な表情を浮かべる。
「でも、これは軍で使われるような物資だよな?普通、市場で見るものじゃないと思うんだけど…」翔が少し突っ込んだ質問をすると、商人は気楽な様子で肩をすくめた。
「はは、確かにそう思うかもしれないが、どこから来たものかまでは詳しくは知らないよ。こっちは仕入れた品を売るだけさ。行商人も色んなルートを使って手に入れてるんだろうし、戦争が長引くと物の流れも複雑になるもんだ。」
「なるほど…」翔は頷きながらも、その言葉に納得がいかない様子だった。戦争の物資がこんな風に市場で売られている状況が、どうもおかしい。これがただの偶然であるとは思えない。
エリスが小声で翔に耳打ちした。「これは明らかに不正が絡んでいるかもしれませんね。オステリアとの行商に何か裏があるかもしれません。」
「そうだな…。この件、もっと詳しく調べてみる必要がありそうだ。」翔はさらに商人に話しかけた。
「その行商人、またいつ来るか分かるか?」
商人は少し考え込む。「うーん、最近は毎週のように来てるな。次はまた数日後じゃないか?」
「ありがとう、助かったよ。」翔は軽く礼を言ってその場を離れると、エリスと共に市場を後にした。
「この話、フリーデリケに伝えよう。何か重大な問題が隠れている気がする。」
翔は急いで王宮に戻り、フリーデリケにこの異常事態を報告した。王宮の書庫で資料を整理していたフリーデは、翔の話を聞くと驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「フリーデ、ちょっと聞いてくれ。市場で軍の物資が売られていたんだ。オステリアからの行商人が持ってきたらしいが、どう考えてもおかしい。どうして民間に流れているんだ?」翔は焦りを隠せずに話す。
「それは、かなり深刻な問題ですね。」フリーデリケは眉をひそめ、思考を巡らせる。「物資の横流しが行われている可能性があります。軍の在庫管理に不備があるか、あるいは誰かが意図的に動かしているのかもしれません。」
翔はその言葉に身が引き締まる思いだ。「すぐに調査を開始しないと、他にも影響が出てしまうかもしれないな。」
「はい、まずはどの部隊がどれだけの物資を受け取っているのか、正確な記録を確認する必要があります。」フリーデリケは指示を出す。「私たちが把握している支出記録を整理して、そこから不自然な過不足を見つけましょう。」
翔は頷き、「それに、どの部隊が異常な動きをしているか、聞き込みも必要だ。商人の話では、オステリアから来た行商人が重要な役割を果たしているみたいだし。」
「行商人についても調べる必要がありますね。彼がどの部隊から仕入れたのか、そのルートを追跡しましょう。」フリーデリケは明確な表情で続けた。「この件が解決するまでは、注意深く行動する必要があります。」
「そうだな、早速手を打とう。」翔は決意を新たにして言った。「情報を集めるために、各部隊の支出記録を取り寄せる手続きを進めてくれ。」
フリーデリケは頷きながら、資料を整理しているデスクに戻った。「必要な書類を集めます。そして、部隊に対しても注意を払っておきますね。」
翔は再び市場のことを思い返し、心の中で不安を感じる。「この問題、早く解決しないと、さらに悪化してしまうかもしれない。特に、民間人に影響が出るような事態は避けなければ…」
「私たちの手で、必ず解決しましょう。」フリーデリケの言葉に翔はうなずき、二人は静かに次の調査へと動き始めた。
続きを書くモチベになるので、是非とも星⭐︎⭐︎⭐︎、フォローお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます