04 メイドのエリス

翔とフリーデリケの会話が一段落したころ、夜も更けていた。


「今日はもう遅いので、休んでください。明日また、財政について話し合いましょう。」フリーデリケは穏やかに言った。


「それがいいですね。」翔も頷き、疲れが顔に現れていた。


フリーデリケは続けた。「翔さん、王宮の近くに宿舎を用意しました。そこに住んでください。今は少し休んで、後日落ち着いてこの国の問題に取り組んでいただければと思います。」


翔は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。「ありがとうございます。王宮に近い場所なら、色々な仕事もしやすいですね。」


フリーデリケは続けて、「今日はもう遅いですし、明日以降ゆっくりと始めれば大丈夫です。それに、しばらく王都にいる間に、この町のことも知っておいてください。王都は見どころも多いですし、ぜひ見学してみてください。後ほどこちらから迎えを出しますので、それまで自由に過ごしていてくださいね。」と、少し安心させるように話した。


翔は頷き、「そうですね、王都を見て回るのもいい機会かもしれません。どんな町か楽しみにしています」と答えた。


その言葉に、フリーデリケは微笑み、「王都には歴史が詰まっています。きっと興味深い発見があるはずですよ」と優しく言葉を添えた。


翔は王宮を後にし、フリーデから言われた通り、王宮の近くに用意された宿舎へと向かった。王都の夜は静かで、月明かりに照らされた石畳の道がどこか幻想的な雰囲気を漂わせていた。しばらく歩くと、石造りの一軒家が見えてきた。


到着すると、家の前で待っていたのは、18歳くらいの可愛いメイドだった。彼女はにこやかに翔を迎え入れ、軽く頭を下げて言った。


「翔様、お世話を仰せつかりました。私はこの家のメイド、エリスです。どうぞ、ご用命がありましたら何なりとお申し付けください。」


「翔様か…慣れないな。」翔は心の中で苦笑しながらも、少し戸惑いながら「よろしく頼むよ、エリス。」と返事をした。


「翔様。お飲み物やお食事、どのようなご用件でも仰ってください。私は翔様のために全力でお手伝いさせていただきます。」エリスは、澄んだ瞳で翔を見つめながらそう答えた。


翔は一瞬戸惑ったが、すぐに質問を思いついた。「この辺りのこと、教えてくれないか?王都に来るのは初めてなので、何がどこにあるのか全然分からなくて。」


エリスは少し微笑んで答えた。「この王都は古くから栄えており、城下町として発展してきました。中世の時代から続く建物がたくさん残っていて、歴史を感じさせる街並みです。王宮の近くには大きな広場があり、そこでよく市が開かれます。食材や日用品、工芸品まで様々なものが手に入りますよ。」


なるほど、中世ヨーロッパのような感じか、翔は興味を持ちながら聞き入った。「他には、どんな見所があるんだい?」


エリスは頷きながら説明を続けた。「王都の西側には学問の中心地があり、魔法や錬金術を学ぶ学術機関があります。そこには歴史的な図書館もあり、研究者や学者が多く集まっています。また、東側には商業地区が広がっていて、特に工業や貿易が盛んです。」


「かなり発展した都市なんだな。近代的な要素もあれば、古い歴史を大事にしている場所もあるみたいで面白そうだ。」翔は興味深そうに街の様子を想像していた。


「はい、翔様。もしご興味があれば、明日市を案内いたしましょうか?市場や王宮周辺の名所など、ぜひご覧いただければと思います。」エリスは提案した。


翔は一息ついて、エリスに微笑み返しながら言った。「ありがとう、エリス。案内してもらえるなんて心強いよ。」


エリスは嬉しそうに頷き、「翔様、どうぞお疲れを癒してください。お風呂もすでにご用意しておりますので、お時間のある時にお使いください。」と丁寧に告げた。


「お風呂も用意されてるんだ?それは助かるな。」翔は少し驚いた様子で言い、続けて尋ねた。「ところで、この宿舎って普段は誰が使っているんだろうか?」


エリスは答えた。「こちらは、王宮に仕える貴賓や要人の方が滞在されるための場所です。とても静かで過ごしやすい場所ですので、翔様もごゆっくりお過ごしください。」


翔は部屋の静かな雰囲気を感じながら、「そうか、贅沢な環境だな。ありがとう。じゃあ、お風呂をいただこうかな。」と笑顔で言った。


エリスは深く一礼し、「すぐにお風呂場へご案内いたします。」と言いながら、翔を風呂場へと案内した。彼女の案内の丁寧さに、翔はますます感謝の気持ちを抱きながら、今日の疲れをゆっくりと癒す準備を整えた。


風呂場に入ると、心地よい湯気とともに、広々とした浴槽が目に入った。翔はしばしの間、この静かなひとときを楽しむことにした。


翔が湯に浸かり、体の疲れを感じながらリラックスしていたとき、控えめなノック音が響いた。返事をすると、静かに扉が開き、エリスがバスタオル一枚だけをまとった姿で現れた。彼女の白い肌が湯気の中でほんのりと輝き、翔は一瞬、言葉を失った。


「翔様、背中を流させていただきますね。」エリスは顔を少し赤らめながらも、穏やかな笑顔を浮かべて近づいてきた。


翔は思わず目を逸らし、動揺を隠そうとした。「え、いや、気を遣わなくて大丈夫だよ。」


エリスは微笑みながら首を振った。「いえ、お世話をするのが私の務めですから、どうぞ遠慮なさらないでください。」


彼女が近づくと、翔はさらに緊張感を感じた。エリスのしなやかな体が近くに来るたび、微妙に漂う甘い香りが翔の鼻をくすぐった。


「では、失礼いたしますね。」エリスはバスタオルの裾を整えながら、優しい手つきで翔の背中に湯をかけ、柔らかいスポンジで丁寧に洗い始めた。彼女の指先がそっと肌を撫でるたび、翔は自分の心拍が早まるのを感じた。


「この街、いろんな文化が混ざり合ってるみたいだけど、君はこの王都で生まれ育ったの?」翔は会話で気を紛らわせようと、ぎこちなく質問を投げかけた。


エリスは翔の背中を洗いながら、ふと笑みを浮かべた。「はい、私は王都で生まれ育ちました。幼い頃から、王宮の仕事に憧れていました。特に、王族や宰相のお世話ができるなんて、夢のようなことでしたから。」


「なるほど、だからこんなに手際がいいんだね。」翔は背中の心地よさに少しほっとしながらも、まだ心の中の落ち着かなさを抱えていた。


「翔様のために、何でもお手伝いさせていただきます。お体が疲れたら、何でもおっしゃってください。」エリスの声には、どこか甘い響きがあった。


翔は彼女の柔らかな指が自分の肌を滑る感触に、意識しないように努めながら、もう少し街の話に戻そうとした。「ええっと、そういえば、明日はどこを案内してくれるんだっけ?」


エリスは微笑みを浮かべたまま、「市場や王宮の近くの名所をご案内しようと思いますが、翔様のお好みに合わせます。何か特に見たい場所があれば、仰ってくださいね。」と答えた。


翔は、エリスの手の動きとその言葉に、心の中で小さくため息をつきながら、次の日のことに思いを巡らせた。



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