無気力英雄は世界を2度救う

紅赤

プロローグ・青年が彼女にあう前のこと

人間を殺し、世界を魔族のものにしようとした諸悪の根源。

それが魔王。

圧倒的な魔力量、肉体、頭脳。

それらを駆使した魔王により、幾度となく人類は滅亡の危機に瀕した。


しかし、それはもう過去の話だ。


3年前、魔王はあっさり討伐された。

しかもそれをやってのけたのは、14歳の少年。


嘘みたいな話だと、人々は半信半疑だった。

けど、それは大して重要じゃない。

大事なのは、"魔王がいなくなり世界は平和になった"。

それだけである――



◇◆◇



「――ん……朝、か」


窓から差し込む朝日で目覚めたのは、17歳の青年。

森の奥にある小さな丸太小屋に、彼は住んでいる。

眠たい目をこすったあと、あくびをしながら顔を洗いに行く。

……だが、目はまだ覚めてないようで


ねみぃ……二度寝しよ」


せっかく顔を洗ったのに、またベッドに横になった。

すぐにまぶたは重くなり始め、瞳に映る景色が暗闇へと変わろうとしている。


だが、その時だった。


『――うあぁぁぁああッ!』


青年の耳に響いたのは、女性の叫び声。

――と、魔物の咆哮。


「……近いなぁ……しかもピンチっぽい」


女性の声色から、魔物に襲われているのだろうと青年は察した。


「無視するわけには……いかないよなぁ……」


そう呟くと、彼は気怠さで満ちた体をむりやり起こす。

そして後頭部を掻きながら面倒そうに歩くと、無造作に壁に立てかけてあった黒い刀を手に取った。


「さて……ちょいと助けに行きますか――"英雄"らしく、ね」


魔王討伐から3年後の今日。

英雄と呼ばれた青年の時計の針は、もう一度動き始める。

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