第1話

 仲のいい幼馴染がいるのって奇跡なんだからもっと大切にしなきゃ駄目だよ!!


 私、寺北てらきた灯莉あかりは、アスファルトの上で荷台には重い学生鞄が乗っている自転車を必死に漕ぎながら、悠花──河崎かわさき悠花ゆうかから言われた一言を不意に思い出した。言われた直後に、そんなことは言われなくても分かってるし死ぬほど大切にしている、と心の中で言い返したし、こうして思い出す度に心の中で言い返している。

 小学校二年生の頃に友達になった悠花は、大人びた顔からは想像もつかないほど、白馬の王子様が迎えに来てくれることを夢見る乙女で、部屋に置いてある二つの本棚には少女漫画がぎっしりと詰められている。

 悠花がさっきの言葉を私に向かって言ってきたのは、確か三年前の今頃──でも、七月中旬にもかかわらず曇っているからかそこまで暑くない今日とは違って、冷房の効いた部屋でアイスを食べたくなるぐらい暑い日だった気がする。

 何日だったかは忘れたのに、その時の悠花の声と表情は、衝撃を受けたからだろう、鮮明に覚えている。興奮した高い声が鋭い棘を含んでいて、上気した頬、睫毛の長い焦茶色の瞳の奥は嫉妬の炎がめらめらと燃えていて、これらのことに悠花が気づいていたのかは質問しない限り分からないけれど、私はすぐに気づいて心底ぞっとした。

 多分というより絶対、悠花はすぐるのことが好きで幼馴染の私に奪われることを恐れているのだ。私も悠花に奪われることを恐れているし、ただの幼馴染だよ、と今までずっと嘘を吐いて誤魔化してきたけれど、本当は恋心を抱いていることが悠花にばれて、友情が壊れることを二番目に恐れている。そして、私が最も恐れていることは……、

 聞き馴染みのある鼻歌が耳に届いてはっと我に返った。機嫌がいい時に歌っていることが多いその鼻歌がぴたりと止まる。

「よっ灯莉!」

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