第364話 選ばれし者

 おはよう。ロウです。今、目の前で激しい戦闘が繰り広げられている。



 箱庭の牧場に来ているんだ。俺が作った荷馬車を引くのに、ワイドバッファロー達の中から二人来てもらうことになった。


 バロンはフェリナの相棒なので、ブレイザ達四人の中から二人だ。


 交代制で、最初の二人組と後の二人組で入れ替わる予定なんだが、その順番を決めるのに模擬戦が行われている。


 副リーダーにいつの間にかなっていたブレイザ、突進が得意で足が一番速いビリー、器用でフェイントや技を考えて工夫して戦うベック、四人の中で一番魔法が得意なボルド。


 その四人が戦っているんだ。スキルあり、魔法あり、怪我ありでだ。致命傷を負わせることはしないが、ほぼ実戦だね。



 それだけでも大事おおごとなのに、モッチル達も出番を勝ち取るために模擬戦を始めている。


 ムルルと共に行動して護衛する役。基本的に外ではゴーレム君がいるが、街には入らないので、ペットの振りをして潜入し護衛できるモッチル達の出番なんだ。


 モッチル達の見た目なら門番に止められることもないだろう。特にムルルが抱っこしていれば、無害さをアピールできるはず。


 そう、こっちは枠が一つなんだ。



「交代制だから、全員出番があるんだけどな」

「みんな群れの役に立ちたい気持ちが大きいみたいですから、待っていられないんですよ」


「そういうものか」

『みんな、がんばれー!』


 リンも俺の肩の上から応援している。いつの間にか全員集合していて、なんだかイベントになっているよ。



 個人戦で四人が同時に戦う戦場。視野が広く全体を把握していて、実力も高かったブレイザが勝者となった。


 ここで終わりではない。ムルルとゴーレム君、そしてグラニの治療担当が怪我を治し、疲労回復薬を飲ませ休憩したら、最後の枠を掛けて二回戦目だ。



 その治療の横では、モッチル達の勝者が決まった。最初、マーシュとマロウが協力して、他の三人を倒して二人で決勝戦をしようと画策したようだが、逆に三人に協力されて真っ先に敗退していた。


 その後、個人戦に移行したが、魔法が得意なディンゴは魔力を使いすぎて後半は不利になって敗退。モッチルとラティマの一騎打ちとなったが、前半の疲労によりラティマが失速、全体的に安定していたモッチルが勝者となった。


「グワ、グワワッ!」『これが、ボスに選ばれたリーダーの実力よ』

「おめでとう。ムルルの護衛として、最初に参加するのはモッチルだ」


 青いバンダナを首に巻いてあげる。無害さをアピールするためにも、鎧を着せるわけにはいかないからね。首飾りとして、再生効果が付与されるものだ。


「次の護衛に代わる時には、このバンダナを受け渡して欲しい」

『分かったわ。これが護衛の証なのね。全力で頑張るのよ!』


 気合が入ったモッチルがムルルの所に突撃している。モッチルを重そうに持っているムルルに、ロコが以前に使っていた怪力両手かいりきりょうしゅ効果の腕輪を装備してもらう。


 全体的に強化される剛力無双ごうりきむそうとは違う進化先のスキル。怪力両手かいりきりょうしゅは、両手、両腕を中心に強化するタイプなんだ。足腰も多少は強化されるみたいだけどね。



 ワイドバッファロー達の二回戦が始まっていた。休憩時間が短かったのもあり、あまり魔力が回復していないので、魔法が得意なボルドは不利だ。


 足が速いビリーと器用なベックが一騎打ちになり、ベックが器用にビリーの突撃を受け流して隙を生み出し反撃。ベックの勝利だった。


 ブレイザとベックには、以前から準備していた鎧を装備してもらう。荷馬車を引けるようにもしてある。四人分あるから勝者だけの物ではないんだけど、表彰するかのように二人に着せてあげる。


「モウッ!」『頑張ります!』

「モウゥ」『役目を果たします』


「うん、二人とも頑張ってくれ。出番は今日の午後の予定だが、予定が変わる事もある。状況に合わせて対応して欲しい」


「モウッ!」『了解しました!』

「モウッ!」『了解です!』


「では、怪我している人たちはムルル達に治療してもらって、選ばれた人は午後まで休憩しておいて。それじゃあ、一度解散だ」


 最後は大会のようになっていたけれど、盛り上がっていたな。戦闘系は大怪我しそうだから、運動会くらいならやってもいいかもな。



 午後になったら、三人で街に行く。


 冒険者ギルドで解体場での売却分のお金を受け取り、依頼の確認をする。


「納品依頼に変化はないかな。手持ちで終わらせられるのは、薬草採取系かな?」

「そうですね。終わらせておきましょうか?」


「うん、そうだな。コツコツと頑張っておこうか」

「師匠、護衛依頼とかは受けないんですか? 新しいのが帝都行きであります。報酬も良いと思います」


「あぁ、どうしようか。今回は、ウル達も一緒に移動する予定だから、やめておいた方がいいかな。相手が嫌がるだろう」

「そうですね。この国だとやめた方がいいですよね」


「この国以外だといいんですか?」

「南にあるリジャグウリ首長国しゅちょうこくは、遊牧民がいたり、相棒の文化があったりするから、魔物の仲間は受け入れてくれるんだ」


「後は、私の国でも受け入れてくれる街は、それなりにありますね。王都はダメでしたけど」

「僕の街でも警戒されていましたけど、受け入れてくれる所もあるんですね」


「過去に英雄が魔物を仲間にしていると、受け入れてくれる事が多いな」

「そうなんですか。面白いですね」


「いくつか英雄の本があるから、読んでみるといいよ。物語としても面白いからな」

「はい。今度、借りますね」


 袋の中に薬草を取り出したら、受付で薬草採取の依頼を達成して、その場で報酬を受け取り立ち去る。


「この後は、すぐに帝都に向かうんですね」

「うん。何か買いたい物があるなら、買い物でもいいけれど?」


「いえ、大丈夫です。帝都の方では買い物がしたいので、その時はお願いします」

「分かった。予定に入れておこう」


「あの、帝都に向かうなら護衛依頼を受けて頂けませんか?」


 そう声を掛けて来たのは、ベテランさんだった。この人の名前知らないんだよな。まあ、聞く必要もないか。続けて話すベテランさん。


「ボスの甲羅なんですが帝都で必要でして、あそこまで綺麗な物もなかなか無く。出来れば優秀な護衛が欲しいのですが、どうでしょうか?」


 あぁ、俺達が納品した甲羅か。ここのダンジョンで取れるものだから依頼はここだけど、帝都で必要なんだな。


「魔物なら、まだ活動的でもないですし普通の護衛で充分な気がします。希少な物かもしれないですが、依頼を受けたその日に納品し次の日には運ぶなら、狙われるようなタイミングでもなさそうです。帝都までの道で盗賊でも出ているんですか?」


 困り顔でベテランさんが説得してくる。


「情報がありまして、大規模な盗賊のアジトが潰されたようなのですが、生き残りが逃げている様でして。その、念のためではあるのですが、欲しがっている方が身分が高い方でして、私共としても失敗はしたくないのですよ」


 心当たりがある相手だけど、こっちに来るだろうか? 南に進んで国を出ていそうだけどな。さらに西に行けば内戦中で荒れていそう。俺なら、そっちを目指すよ。まあ、盗賊がその情報を持っているかは分からないか。


『どうする? 俺は、この後で自分達が納品した物が、盗賊に奪われることはなくても、傷付けられるのは嫌なんだけど』

『そうですね。ロコちゃんと協力して綺麗に倒して、解体も丁寧にやっていましたし、目的地でもありますから良いと思いますよ。後は、ウルさん達がいてもいいのかですよね』


『それがあったな。まあ、念のためなら、騎獣がいた方が敵に早く気付けるとか言えば大丈夫かな』


 考えをまとめて返事をする。


「こちらは騎獣がいますが大丈夫ですか? 街の外で仲間と待っているんですが、肉食の魔物なんです」

「確認はしますが、それは大丈夫だと思います。今回の荷馬車を引く馬は元軍馬ですし、担当する御者ぎょしゃ達は元冒険者のギルド職員ですので。ただ元Cランクですが、現役ではないので基本的には御者ぎょしゃですね。護衛の戦力としては考えないでください」


「分かった。そちらが問題ないなら、後は報酬を確認したいのですが」

「それでしたら、こちらの依頼票ですね。ご確認ください」


 それは、さっきグラニが言っていた護衛依頼だった。報酬は良いな。条件の方をよく読んで問題ないことを確認。一応、副リーダーにも確認してもらう。


「大丈夫だと思います」

「それじゃあ、この護衛依頼を受けよう」


「ありがとうございます。すぐに受け付けますね。出発は明日の朝がいいですか?」

「こっちは、早ければ早いほどいいかな」


「であれば、すぐに準備させますね。少々お待ちください。受付証を持ってきます」


 ベテランさんが奥に消え、すぐに受付証を持って来てくれた。


「確認して来ました。今から準備して、帝都側の門の外に向かわせます」

「はい。では、こちらも仲間と共に、帝都側の門に向かいます」


「よろしくお願いいたします」


 すぐにダンジョン側の門から出て、森に入る。そこから、帝都側に回り込みながら、荷馬車を出して進めるのに良さそうな場所を探す。


 少し開けた場所に荷馬車を出して、ブレイザとベックを呼び出し、ムルルとモッチルには荷馬車に乗ってもらう。


 ゴーレム君には、特製の兜を魔導兵器の上から付けてもらう。ピッタリとはまるように作ったので、攻撃されても外れないだろう。内側から、はまっている部分をずらさないと外れないんだ。たぶん、サンドハンドがないと無理だと思う。


 そして、装備はグラニと似ているけれど、こっちは大盾おおたてに長槍だ。門番として立っていてもいいような見た目だね。俺達の荷馬車を守るために雇っている寡黙かもくな荷物番であり、護衛役として頑張ってもらうよ。


 大量に荷物を並べたら、フェリナには御者ぎょしゃをしてもらう。バロンにはグラニが乗り、そのグラニと一緒にロコも待機。俺はウルに乗り、ゴーレム君とカラが追走する。


 俺が先頭を進み帝都側の門へ向かうと、大型で頑丈そうな荷馬車が待っていた。まずは、俺だけが近付き依頼の受付証を見せて、隊形を相談する。


 ゴーレム君が最後尾を走り、カラが左側、右側をグラニとバロン、隠れているロコ。前方にフェリナ達の荷馬車に進んでもらう。


 俺は、基本的にカラと共に左側を移動するが、状況によって自由に動けるようにした。


「それじゃあ、先に行かせますので、後をついて行ってください」

「はい。お願いします」


 ギルド職員の御者ぎょしゃは二人いて、交代しながら進むみたいだ。疲労回復薬を用意しているらしく、軍馬たちに休憩のタイミングで飲ませるので、こちらも飲むように言って、薬を渡された。


 たぶん、これって俺達が売った薬だよな。急ぎの運搬とかにも使っているんだな。まあ、役に立っている様で良かった。



 急ぎの配達で四日で帝都に着く予定。のんびりした旅は、また今度かな。これも良い経験になるだろう。盗賊に関しても良い経験になるだろうけど、俺が会いたくないな。対人は苦手なんだ。何事もなく終わって欲しいな。

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