プロローグ・生まれてきてごめんなさい

第1話

 明日こそ死ねるだろうか。死ねたらいいな。本当は考えたくないことを、虚ろな瞳で考える。死にたいけど死ぬのが怖くて死ねないから、死にたい今日を、ただ生きている。




 これは、母親から聞いた話だけど、私──はらすいは赤ちゃんの頃、四歳上の姉に比べて握る力が弱かった。そのため、母は私のことを障害児ではないかと疑い、ひどく心配していたそうだ。


 母が慌てて医者に私を診せると、


『これぐらい心配する必要はないし障害も持っていません。大丈夫ですよ』


 医者は優しい口調でそう言った。もし障害を持っていたらどうしよう、という不安や絶望感に苛まれていた母は、そこでようやく、よかったと心の底から安堵したらしい。



 でも、それを聞いた私は母と同じように安堵することはできなかった。


 なぜかというと、私はみんなより音に敏感で苦手な音が多いからだ。物心が付いた頃から今までずっと音に怯えながら息をしている。


 だから、私は私を、普通の人間ではないと認識している。たとえ、本当に健常者なのだとしても、障害者に限りなく近い健常者なのだろう、と思っている。


 そういえば、先週の水曜日に勇気を振り絞って打ち明けた友人に誤解されてしまったけれど、私は別に聴覚に優れているというわけではない。


 一昨日、家族にも耳がいいと誤解されていたことが判明して、密かにショックを受けていたのだけれど。


 聴覚過敏に関する記事を偶然発見して読んで以降、インターネットで読み漁ったうえでこう推測している。


 私は聴覚過敏なのではないか、と。

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