第6話 いざAVO2へ!
side 晴乃
よーしっ!
ついに来ました先輩とゲームの日!
この日に備えてVRゲームを色々触ってきたからVR酔いはしないはず!
サービス再開の今日のために仕事は全部潰しておく念の入れ用、晴乃は浮かれに浮かれまくっていた。
アバター作成とかあるだろうから1時間後に集合しようか、とは先輩からの言葉。
リードしてくれるの嬉しいな…
とかなんとか考えてたら開始の時間になっていたので急いでヘッドギアを装備する。
『Another verse onlineへようこそ。』
どこか機械感の強い声に迎えられる。
『貴方が生を送る、もう一つの世界での魂を形作ってください。』
随分仰々しい言い方だけど世界観的にそういうものなのかな?
目の前に広がる半透明なウィンドウには5つの種族が記載されていた。
事前に調べた所ここもアップデート要素らしく、前までは人間族(ヒューマン)のみの確定事項だったらしい。
「どれどれ〜?人間族ドワーフ族エルフ族獣人族半魔族…と」
事前調査そのままの内容に安心する。
ここで選択した種族によって根幹となるメインストーリーが変動するらしく、またそこから自分がどう選択するかでも大きく分岐するらしい。
ここで重要なのはチュートリアル拠点が各種族によって違う、という点である。即ち先輩と別の種族を選んでしまうと、下手すると1時間どころか会えるまでとんでもない時間がかかってしまうかもしれない、という事だ。
AVOの世界は元々ワールドワイドな展開を予想していた事から世界の代表的な国に合わせて地続きではあるがサーバーのようなもので区分けされているらしく、その上種族によって分けられる。日本サーバーの獣人族初期拠点とアメリカサーバーの半魔族初期拠点ではとんでもない距離が離れている可能性があるのだ。
各拠点を繋ぐワープ装置があれば話は別だがスタートして早々他の種族の拠点に飛べる、と楽観的に考えて痛手を追うなどリスクは負えない。
私は先輩とゲームがしたくて遊んでいるのだ。
「先輩は確か人間族、って言ってたよね!」
迷う事なく人間族と書かれているプレートをタップ。
『これ以降他種族への変更はできませんが【人間族】でよろしかったですか?』
「大丈夫ですっ」
滑らかな動きによりプレートは溶け消え、目の前にはのっぺりと真っ白なマネキンのような物が現れた。
『人間族ですね、設定いたしました。続いて貴方の魂の器を生成してください。』
要するにアバター作成だろう。身長や顔付き、髪の色だったりと多少弄れるみたいだ。この辺はヘッドギアの初期設定により体格等々はスキャンされていた。リアルそのままだと特定されたりとかの配慮だろうか。今回は人間族を選んだ為いじれるパーツは少ないが、種族によって特徴あるパーツが存在するらしい。猫耳とか私は恥ずかしくなっちゃうから先輩が人間族選んでくれて良かったかも。
あんまりいじって先輩にイタい子って思われたくないし…髪色だけにしようかな、?
身長、顔つきはそのままに髪をプラチナブロンドのセミロングにする。中々派手な髪に染められる環境も自信もなかったのでほんのちょっとの勇気だ。
因みに身長をいじるとリアルでの感覚とズレが生じてしまい歩く事すら困難になった、とはアプデ前経験者の話だが、今回からアシストがつく事で心配はいらなくなったと聞く。
別に身長についてどうこう思っているわけでもなかったので、特にいじらずに先に進んだ。
『最後に貴方の魂に名を刻んでください。』
「名前…んん〜…」
晴乃のネーミングセンスは昔から皆無であった。
小、中、高と多々ある名付けイベントにおいて私の案が通ったことはない。ましてや「え、本当に言ってる?」なんて目で見られたくらいだ。(実際に声に出して直接言われたわけではないが)
ちょっとしたトラウマにすら成りつつある名付け。うんうん唸りつつ悩んだ結果、安牌の【ハル】と名付けた。
「安直だけど笑われちゃうよりはマシだよね、」
『これより人間族の拠点へと導きます。困ったことがありましたら、アシストをお呼びください。』
『それではハル、貴方の旅が幸多からん事を。そして素敵な出会いに多く触れられる事を祈っています。』
どこかから響く機械的な、しかしどこか優しく微笑んだような声に背中を押され、視界は眩く霞んでいく。
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視界が確保できるようになり周囲を見渡す。
そこに広がるのは石畳、噴水、建物と中世ヨーロッパじみた外観の街並みだった。
「日本エリアだからって日本風な街並み、って訳じゃないんだね。」
ひとりごちりつつも周囲を確認する。
噴水を中央とする広場には多くの人間族が集まっていた。
再注目され同時接続数もとんでもない数だと思っていたが考えていた光景より控えめである。人間族をまた選ぶ、というより新しい物に惹かれる人の方が多いのだろう。他のエリアはとんでもない事になっていそうだ。
「…っとと、先輩との集合までにある程度やっておかなきゃ。えーっと確か…」
公式運営より出されている初心者向け案内にアシストシステムの呼び出し方が記載されていた。
「こ、コール!Assist Ingenuity!」
正しく発音できていたか分からないが、システム側は上手く読み取ってくれたようで、周囲をくるくると光のようなものが走ったかと思うと、目の前に姿を現した。
『じゃじゃーん!はいはいよばれましたー!あしすといんぜにてぃーのいーくんです!いーくんてよんでください!』
めちゃくちゃ活発そうな女の子?の妖精が出てきた。10センチほどの小さな妖精である。私より発音が心許ないのである程度の発音と呼びたい意思があれば出てくるのかもしれない。
もしかしてコールいー君とかでも可能なのかな?
「えーっと、それじゃあいー君、でいいのかな?操作アシスト機能をお願いしたいんだけど。」
『操作アシスト機能ですね!わっかりました!ん〜…っぱっ!』
力を込め出したいー君に蛍のような儚げな、けれども確かにそこにあると思わせるような光が集まっていき、パッと意識をこちらに向けたかと思うと集まった光は私の身体へと溶け込んだ。
『これでいーくんのあしすとがうけられてるはずです!からだをうごかしてみたりてっくおねがいします!」
てっく…チェックかな?
運営としての機能だからか固有名詞はしっかり発音できていそうだが所々たどたどしくて可愛らしい。
脱線していた意識を戻し体を動かす。
と言ってもステータスを振るまでいつもの体だ、今違和感があるようなこともなく普段通りに動いた。
「いー君は他にどんなアシストをしてくれるの?」
『いーくんはクエストのさぽーとやハルさんのぎもんにおこたえできます!かくしんにせまるしつもんについてはこたえられません!』
運営の代わりのようなもの…と見て良いのかな?ゲームの操作についての質問とか冒険に詰まったら質問してみると良いのかもしれない。
基本的な操作について聞いたのち、色々質問してみたがこの後の目標などは教えてもらえなかった。この辺りは自分でストーリーを進める事で知っていく箇所なのだろう。
『ふだんはひかりになってハルのことをみまもってますので!ようがあったらよんでください!』
そう言ってふわ〜っと光となり周囲に溶けていく。
質問がある時はまたコールで呼び出すのだろう。
「コール!メニュー!」
いー君に教えられた通りコールをすると目の前にキャラ作成の時と同じような半透明のウィンドウが現れた。
ステータス、インベントリ、フレンド、ログアウト等、基本的な操作はここから行えるらしい。また、「コール インベントリ」で直接呼び出すショートカット機能も存在しているようだ。
「まずは先輩に連絡取らなくちゃ…えっとフレンドフレンド…と」
今回のアプデからフレンド検索機能が実装されたらしい。むしろ今までなかった事に驚きだ。
検索方法はヘッドギアそれぞれに割り振られているIDによるもので、すでに先輩から教えてもらってある。
「…っと。【トーマ】さんかな?私とおんなじでそのまんまだっ」
おそろいみたいで思わず笑みが溢れる。
先輩と一緒に遊べるのが待ち遠しくて仕方ないのだ。
フレンドの申請を送ると少しして承認されたと知らせが入る。
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ハル:先輩であってますか?
トーマ:うん、合ってるよ
トーマ:分かりやすい名前で助かったよ
ハル:それは先輩もじゃないですかー?
ハル:思わず笑っちゃいましたもん笑
トーマ:恥ずかしいからやめてくれ…
トーマ:それはそうと準備はいいのか?
ハル:はい!大丈夫です!
ハル:どこに集まりましょうか…?
トーマ:人が多いから少し離れた所にしようか
トーマ:【マップポイント】
トーマ:これで分かるかな
ハル:分かりました!向かいますね!
ハル:ちょっとだけ待っててください!
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先輩の示した箇所はここから少し離れているようだ。
その方へと向かおうと歩を進めようとしたその時、不意に声をかけられた。
「やぁお姉さん、お困りかな?良ければアプデ前からプレイしていたこの僕がサポートしてあげようかと思うんだけど、一緒にどう?」
金髪エルフだ。
いや、エルフ族じゃないかもしれないが身体的特徴からエルフに見える。
長く尖ったザ・エルフと言わんばかりの耳。
耳をいじるような要素はキャラ作成の時になかったと思うのでエルフ族か現実で実際にこの耳かの2択だろう。
「エルフ族さんですか…?なぜここに…」
「気になるかい?ここだけの話ワープポータルがこのアプデから実装されてね、僕達 アプデ前組は補償でワープポータルを起動するだけの資金があるのさ!」
「そ、そうなんですね〜!」
うーんどう断ろう…
キャリーして欲しいわけではない私からすると魅力的な話ではない。
「ごめんなさい、もう一緒に遊ぶ人は決まっていて…他の人を誘ってあげてください。」
「その友人も合わせて僕が面倒見てあげるよ!気を負わなくていい、女の子なら大歓迎さ!」
ん〜ちょっとめんどくさい…
「ごめんなさい急いでるんで!」
「あ、ちょっと!…チッ何回目だよクソ…」
無理やり逃げるようにその場から走り去る。
背後からぼそぼそと声が聞こえたような気がしたがよく聞き取れなかった。こういう誘いは話せば話すだけ面倒になる。日常で遭遇する機会がないわけでもないので心はそこまで痛まなかった。
話していて少し遅れてしまった。
先輩との待ち合わせ場所へと急ぐ。
「え…?誰あの人…」
中央から外れた所を集合場所に設定した為、人がまばらで目的の人を見つけるのには苦労しなかった。
私と待ち合わせしているはずの先輩は、なんかケモケモした女の子とどこか仲良さげに話していた。
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