第2話 運営からのお知らせ

「このゲームなんでサ終しねえんだ?いや有難いんだけどさ…」



日々の日課である終焉龍を数回ボコり、ヘッドギアを外しふーやれやれとひとりごちる俺。


あ。月雲つくも 読真とうまです。25歳です。

普通の会社勤めで業務内容はテレワークで完結してるので基本的に家に居ます。独身彼女なしです。



急に誰かに自己紹介した方が良さそうな気がしたので心の中で呟く。誰にだよ怖。



趣味はゲーム。

今さっきまで遊んでいたVRMMORPG、AVO一筋である。

基本的にAVOしかしておらず、金を使う様な趣味はない上に自炊をしているので貯金は溜まる一方。


一人暮らしできていて部屋もそれなりに綺麗と有料物件なのに彼女がいないのは何故なんだ?


AVOやってるからか。自己完結してしまった。



そうAVOの話だ。

オンラインゲームのゴールデンタイムとも呼べる時間に遊んだにも関わらず、ワールドには俺を含め6人。


星の瞬きほどの一瞬、覇権を獲ったとは言え、6人ぽっちでオンラインゲームを運営する費用を賄える訳もなく。


というか今更課金する要素がない為運営の収入は0なのである。



なんでサ終しねぇのか疑問に思うのも無理はない話だと分かってもらえただろう。


ここまで一緒に「絶対一緒にマラソン走り切ろうな!絶対裏切るなよ!」と肩を組んで走っていた相方に裏切られ、ついぞ1人となってしまった俺。


やり込みすぎてソロでも十分エンドコンテンツと戦えるとは言え、寂しさは埋められない。


そういえばあっちは可愛い妻と娘がいるとか昔惚気てたっけ。妻子持ちで時間のない中俺に時間作ってくれてたんだろうな…。本当にありがたい話だ。



俺のフレンド欄にある皆は色々な理由で世界を去って行った。


一緒にゲームを買って始めた大学の友人は操作の難易度に挫折。


共にアップデートに馳せる想いを語ったギルドメンバーは音沙汰ない運営に愛想を尽かし撤退。


ラスボスだった終焉龍を討ち果たさんと集まった最前線組は、最終的に相棒となったブレイを除いて燃え尽き症候群となり、満足げな顔をして去った。


そしてブレイの引退。



1人でのプレイがつまらない訳じゃない。


現実では再現し得ない超絶アクション、

一手ミスると即ゲームオーバーの緊張感、

極限を超えた先にある達成感、


どれも非現実的なのだ。

他のゲームでは満足できない領域までのめり込んでしまったのだ。

この世界の魅力に囚われてしまったのだ。


たった1人で。



と、色々悩んでも自分自身変わる事はないのだ。


飯食って風呂入って寝る。


朝起きたらタスクをこなして、またゴールデンタイムに誰かがログインしてこないかと淡い期待を持ちながらエンドコンテンツに挑む。


ひたすら繰り返しの毎日である。日常と化したのであった。



「寂しいけど他のゲームでまた、とか言ってくれてたしな。あんま気にしないようにしとこ。」


1人言いなだめるように呟き、作り置きの夕飯を冷蔵庫から取り出し食べる。



その味は少し塩味が効き過ぎている気がした。



================================



戦友との別れから数ヶ月。明日でAVOリリースからちょうど3周年の日。


特別変わった事も起こらず終焉龍をボコす日々を送っていた。


ワールド同接は97人。

増えた!なーんて喜んだところでフレンド欄オンライン組は0人であり、むしろ3周年前夜に3桁人行かないってなんなのよもう…


メールは0件。

運営チームも周年メールくらい送ってくるだろう、

今年の記念アイテムはなんだろな。因みに去年はケーキ型ハット(防御力0)だった。そこに期待値なんてないのだ。



日が変わるまで待ったところで変化はないと踏み、ログアウトの支度をする。

今日は2周しかできなかったなぁ…やはりソロだと効率が悪い。


インベントリにはぎっちぎちに詰まった終焉龍の素材達。装備も整っているので使い道がなく、かといって捨てるにはあまりにも勿体無い素材達なのでとりあえず詰め込んでしまっている。


そろそろ拠点の収納に移さないとな。

なんて思いながら落ちている終焉龍の亡骸を集める。



「ふ〜楽しかった。ログアウト〜っつってね。」



今日も変わらぬ日々を終え、

明日も運営からの感謝メールを受け取ってまた繰り返しの日々を送る。


そういうものだと思っていた。




0:00 メール1件

================================

差出人 : AVO運営チーム

件名 : 3周年感謝記念+重要なお知らせ


平素より本ゲーム、

Another verse onlineをプレイしていただき大変嬉しく思います。皆様の応援の甲斐ありまして、無事3周年を迎える事が叶いました。


今までのプレイヤー様方に対しての感謝と共に、今後とも共に歩んでいけますことをここに祈っております。


ささやかな気持ちではありますが、【3周年記念ケーキハット(頭装備)】を配布させていただきました。



さて。もう一つの重要なお知らせです。

大変長らくお待たせしております、大規模アップデートを計画しております。


それに合わせ、明日0:00から1週間のメンテナンス期間を誠に勝手ながら儲けさせていただきたいと思います。


プレイヤー様方にはご不便の方お掛けするかと思われますが、ご了承いただけると幸いです。



本アップデートは、プレイヤー様方に十分にご満足いただけるコンテンツだと我々AVO運営チームは確信致します。



それでは勇気ある旅人の皆様、次の旅路が良きものであるよう祈っております。


---------------------AVO運営チームより愛を込めて。


================================




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月28日 17:00

サ終手前の元覇権ゲームを極めた俺、再ブームした世界で無双する。 @sora_21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ