サ終手前の元覇権ゲームを極めた俺、再ブームした世界で無双する。
蒼
第1章 ただいまAVO
第1話 Another verse online
2050年 日本。
グラフィック、没入感、演算力と様々な要素で発達し加速していくゲーム産業の中、とあるゲームが発表された。
曰く、圧倒的グラフィック
我々が普段目にしている世界と寸分の狂いなく、現実かと思うほどの質感と景色。
それはまるで新しくできたもう一つの世界かの如く。
曰く、圧倒的AI
技術が進んだ最新AIを搭載することで、感情や会話をする術を手に入れたNPCや思考を手に入れた魔物たち。
それはまるでその世界を本当に生きているかの如く。
曰く、圧倒的操作性
ハードメーカーより同時発表されたヘッドギア第3世代。
従来機と比べ脳波をより精密に読み取り、思考とズレのない操作性を生み出す。
それはまるで自由自在に動かせる新しい体かの如く。
曰く、圧倒的技術力による没入感
どういったメカニズムなのか皆目見当も付かないような技術により、世界距離が離れていて時差があっても、現実と同様の時間軸になるという。
日本時間夜18時にゲームを起動した人と、アメリカ時間夜18時にゲームを起動した人が同じ時間軸で遊べるというぶっ飛びシステム。
それはまるで現実世界とは異なる法則を持ったもう一つの世界かの如く。
曰く、圧倒的自由度
クラウド上に保存された大規模オープンワールドに、自分のキャラを好きなように強化できる育成システム。
NPCが思考し悩んだ分、発生するオリジナルクエストの数々。
それはまるで誰1人として同じプレイを行うことのできない新たな人生かの如く。
キミを待つのはゲームじゃない。
-----もう一つの世界だ。
壮大なキャッチコピーと共に締め括られたPVは日本国内に留まらず世界に大バズりし、確約された神ゲーとして世界中のゲーマーに大いに注目された。
そして
通称AVOがリリース。
初回リリースでハードとセットでの販売と値が張るにも関わらず、世界1000万本の大ヒットを記録した。
と、ここまでがこのゲームのピークであった。
現実と見間違うほどのビジュアルの世界を強化したステータスで駆け回る行為は、ゲーム慣れしていないプレイヤーを酔わせる程であり。
感情を手に入れたNPCとは会話をミスると好感度を失い、クエストどころか装備やアイテム、空腹度ゲージを回復させる食糧すら購入が不可になる。
ましてや王国で指名手配などされようものなら街にすら出入りが困難になる鬼畜仕様。
相手は所詮NPCだからと横暴に振るっていたプレイヤーや、PKを楽しんでいたプレイヤーは物好きを除いてこれにて脱落していった。
そして新世代ハードによって自分の考えた通り、自由自在に動かせるのは元の自分の体であり、強化されたステータスの体とは勝手が違う為結果として操作性はめちゃくちゃ悪かった。
街のそこらでは己の
そりゃユーザーが離れるといった話である。
しかしそんな逆境でも諦めずにプレイし続けるというのがゲーマーという生き物であった。
普段から死に覚えゲーでメンタルを強化されていたためか、へこたれる事なくトライアンドエラーを重ねて操作に慣れ、現実の人間と同じようにNPCに接し、まさにもう一つの世界で生活するかのようにその逆境に慣れていったのである。
その甲斐あり高レベルプレイヤーが誕生し、パーティを組みギルドを建て、時に協力し時に争い、一般的な
にも…
にも関わらずユーザー離れを引き起こした事象が存在する。
【運営アプデしますします詐欺】事件である。
リリースから約半年後、流石にユーザー離れに危機感を覚えた運営チームは大規模アップデートを告知。走る事すら満足にできないクソみたいな操作性を改善するアシストシステムでも付けてくれないだろうか。新たなる要素を導入して更にこの広大な世界観が広がるのだろうか。等々ユーザーは様々な想いを大型アプデに馳せた。
…
以上。終わりである。
もう一度言おう。運営からのアプデに関する告知は以上、終わりなのである。
バグ修正や周年等のお祝いメッセージでは顔を出す、むしろ好感が持てるほどの速さで修正を行ってくれるレスポンスだったのだが、アプデに関しては問い合わせしても何の音沙汰もなかったのであった。
(因みに操作性に関しても修正は入らなかった。)
そんな感情のジェットコースターを食らったのだ。運営も匙を投げたんだろう、と愛想を尽かし、AVOの世界から去る戦友を多く見届ける事となった。
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そしてリリースからもう時期3年。
ワールド接続人数、6人。
昔は100人埋まっていたフレンド欄に灯るログイン状態を示すアイコン、0件。
パーティ欄、プレイヤー人数1人。
クエストの誘いやアイテム交換依頼が頻繁に届いていたメールボックス、新着1件。
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差出人 : Xx超絶勇者ブレイxX
件名 : すまん。
俺もそろそろ潮時っぽいわ。
一緒に遊んでくれてありがとな!
他のゲームで会ったらまたパーティ組もうぜ相棒!
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「あーあ。遂に1人になっちまったか…」
この世界では顔を見合わせないとフレンド申請は叶わないスマホもびっくりの赤外線仕様。
今世界にいるであろう6人のうち、見当がつくのは物好きな道具屋が1人だけ。後の4人はこの世界の何処かを旅しているのだろう。知る術はない。
そして唯一となった知り合いも変人であり、
「んー。やだ。」
と、申請を断られてしまった。
よって、実質ひとりぼっち完成であった。
「…さーてとっ。ソロになっちゃったけど今日もエンドコンテンツの終焉龍でも周回しますか〜」
とっくにカンストしたレベルから生まれた怪物の様なステータスの体を、トライアンドエラーで身に付けた感覚で軽く走らせる。
目指す雷鳴轟く霊峰には一帯を縄張りとする主、ドス黒く、怪しく薄らと光る鱗に身を包み、赤黒色の雷を体に纏う終焉龍が潜んでいた。
本来最前線プレイヤーがパーティとなり、更に複数パーティとレイドを組み死闘を繰り広げる事でようやく手が届くかどうかというレベルの正真正銘の怪物。
「ん〜その落雷は見飽きたのよな。」
の一撃を軽々と見切り、ついでと言わんばかりにカウンターを喰らわせる男が1人。
まるでそこに来ることが分かっているかのような無駄のない動きでひょいひょいと落雷を交わし、突進をいなす。
それは幾度となく実践してきたトライアンドエラーと、生まれつきの直感により織りなされた神業。
ひとつ、ふたつと攻撃していたはずの終焉龍の身体には傷がつく。
「おっ。ソロプレイでの攻略時間更新じゃ〜ん。」
落雷によるクレーターだらけになった霊峰には、気軽な独り言と共に怪物に背を向ける男と、ズタボロのボロ雑巾にされドロップアイテムと化していく終焉龍の成れの果てが倒れ伏さんとしていた。
この男こそAVOにしがみ付いた数少ない攻略組
そんな頭上には
【ヨミ】
と、ユーザー名を表すプレートが輝いていた。
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