現実(リアル)とVRの差がすごい!
ちは
第1話 お前もVRTを始めないか?
ババババという重く、そして乾いた音が自分の耳の中で反響する。そして最初はびっくりするはずのその音も今となっては相手の位置を教えてくれるただの情報となっていた。銃声が終わってからすぐ俺の耳には聞き馴染みのある声が鳴り響いた。
「ナツ、そいつめっちゃロー!」
「任せろ」
俺は友人からの報告を受け前へと進む。カチャカチャとキーボードを押し込み、マウスを振る。報告通り敵の体力は低く、頭を狙わずとも敵を倒しきることが出来た。
「ナイス~!」
「マルもナイス削りー」
画面に表示される勝利の文字に俺は友人と称賛の言葉を贈り合う。
俺は
「この春休み中に出来るだけランク上げたいときたいなー」
ぐぐぐっと背筋を伸ばし固まった体をほぐす。まだ15歳だというのに自分の背中辺りからバキバキという音が鳴るのを聞くと流石に乾いた笑いが出てしまう。俺の身体……おじいちゃんすぎ!?
「このFPS馬鹿め……それに付き合わされる身にもなってくれよな~?」
「どうせマルもやることないんだからいいじゃんか」
「あのなぁ……俺はお前みたいにFPS一筋じゃないから俺は別ゲーもやらないといけないのだよ」
FPS馬鹿とは失礼なと思いながらもこの春休みに入ってから自分がやっていることと言えばだらだらしながらネットの海にダイビングするかFPSをするかの二択なため反論することが出来ない。「俺の春休み……虚しくね?」という考えがふと頭をよぎったが俺はその考えを頭を振ることで霧散させる。べ、別にいいし!FPSやってる時が一番楽しいからいいし!!
「どうせソシャゲだろ?だったらデイリーだけやって後は俺に付き合ってくれても良いじゃん」
「ソシャゲもやってるけどそれ以外にもやってんの」
「ほーん……ちなみにどんなの?」
「VRTってやつ」
「……VRT?」
聞いたことも無いゲームの名前に俺は首を傾げる。
「そう、VRTalkっていうゲーム」
「VRってついてるからやっぱりVRのやつなんだよな?」
「そうそう、VRの世界に降り立って色々なワールドを見たり、ゲームしたり、色々な人とお話したりって感じゲーム。マジおもろいからナツもやってみ?もう……飛ぶぞ?」
「最後の一言余計過ぎるだろ……でもVR機材って高いだろ?俺詳しくないけど大体高いってイメージあるんだけど」
「まぁ……最新のやつ買うってなると8万9万はするな」
「たっ……無理だろそんなの!」
「いやまぁ1世代前か他の会社の奴なら5万くらいで済むし」
「5万で済むって何?5万も十分すぎるほど高いんだけど?」
マルの口から告げられた衝撃的な内容に俺は酷く戦慄する。5万じゃ済んでないんだよ、全然致命傷だよ。俺の財布と貯金のライフはもうゼロなのよ!
「でもまじでそれくらいの価値はあるんだよなぁ……。一応デスクトップでも出来るけどVRゴーグルを買った方が何千倍……いや何百万倍も面白いからなぁ。最初は高く感じるかもしれないけどお釣りがくるレベルで楽しいぞ。だからナツも買おう、そして一緒にVRTをやろう」
「そんな一緒に遊ぼうで5万消し飛ばせるほど俺は金に余裕があるわけではないんですけど……」
「でもお年玉の貯金とか崩せばギリ買えるんだろ?俺は知ってるぞ」
「……まぁ5万の奴なら買えなくはないけど」
ファッションやレジャーなんかに興味が無い俺は基本的にお金を使うことが少ない。お小遣いやお年玉は欲しいゲームやスキンを一度買ってしまえば残りは全て貯金行きとなる。そのため買おうと思えば手が出せてしまうのだ。
「親友としてのアドバイスだ、まぁじでやった方が良い。本当に面白いし色々すごいから」
「んー……まぁ考えとくわ。とりあえずもう一戦行くぞ」
「あいよー」
この時の俺は知らなかった。このアドバイスが俺の人生に大きな波乱をもたらすことを。親友のアドバイスを聞いたせいで俺の人生がとてつもない変化を生み出すことを。そして──────
VRの世界があまりにも沼だということを。
「……すぅー」
か、買ってしまった……。
目の前に置かれたそこそこの大きさを誇る箱を見て俺は大きく息を吸う。マルと話してから数日の間俺はVRゴーグルを買うかどうかとても悩んでいた。
FPSは好きだが、「FPSばかりやるのもあれなのでは?」という気持ちとVRというものに触れてみたいという好奇心が俺の心をつんつんしてきた。しかしそれと同時にVRゴーグルの値段を見て何度も足踏みをすることになった。……まぁ最終的には買ってしまったわけなんですけど。
「おぉ……すげぇ……!」
箱を開封すると近未来感マシマシのゴーグルが顔を覗かせる。ヘッドホンやマウスなどを開封した時とは比べ物にならないほどの高揚感に俺は自然と口角が上がる。
満足するまで眺めた後は説明書を読み、万が一が無いように慎重にVRゴーグルに手を付ける。……なんかこう時代の最先端にいるみたいな感じがする。
「あ、そうだ。マルに写真送っとこ」
スマホでVRゴーグルの写真を撮り、短い文言と共に撮った写真を送り付ける。
『買っちった』
『おお!良いじゃん!!ようこそこちら側へ』
『なんだこちら側へって……』
意味深な言葉にほんの少し戸惑ったが……まぁマルのことだし深い意味はないだろう。
『これ見ながら色々設定するといいぞ~』
メッセージが送られると同時に一つのURLが送られる。サイトを開いてみるとそこにはVRゴーグルとPCを連携させるための設定方法やその他諸々のおすすめ設定などが記載されていた。
『ありがと、めっちゃ助かる』
感謝の言葉を送ると可愛さと気持ち悪さを兼ね備えた魚が親指を立てているスタンプが返って来た。そのスタンプ使ってる人多分お前含めて数人しかいないぞ……。
「よし……これで行けるはず」
マルに教えてもらったサイトを見ながら諸々の設定を終わらせる。
「PCとの連携は出来たし、VRTのアカウントも作ったし、後は実際にやってみるだけだな」
俺はヘッドセットを装着し、VRの世界へと足を踏み入れる。
「うおっ……これがVR……なんかすげぇ違和感あるな」
日常では感じることのできない独特な浮遊感と居心地の悪さに俺はほんの少し不快感を感じる。感覚的には乗り物酔いに近いだろうか?変な感じだけど……まぁそのうち慣れるだろう。
VRTを起動し、ロード画面が終わると目の前に見たことも無い世界が形成される。手前には英語で何かしら書かれている看板があり、周囲は草やヤシの木のようなものが生えている。そして少し奥の方にはソファのようなものとさらに奥には青い光を放つポータルらしきものが設置されていた。
「ここは……広場的な所なのかな?」
藍色の空の下、水色や白など明るめの色のデザインが各所で見られるこの広場はおそらくVRTを始めた人が降り立つことになるチュートリアルワールド的な物なのだろう。
「まぁチュートリアルって言っても……よ、読めねぇ」
このワールドにあるすべての文字が英語で書かれており、一体どうしたらいいのか、何から始めればいいのか全く分からない。日本人初心者へのあまりの対応っぷりに俺は苦笑を漏らす。
「とりあえず奥のポータルの中に入ってみれば良いのか?」
この簡素な広場の中でやはり目を引くのはポータルだろう。あのポータルを使えばおそらく色々なワールドに行くことが出来るはず。なのだが……
「これ入って大丈夫な奴か……?なんか嫌な予感するんだけど……」
すべて英語で説明されている広場に設置されているポータル。繋がっている先がどういうワールドなのか理解できるはずも無い英語のタイトル、そしてタイトルの終わり際に堂々と描かれている星条旗のマーク。うん、これぜっっったい海外の人しかいない奴ですよね。
「……っすぅー……詰んだが???」
俺のVRライフは始まって数秒で終わりを迎えたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます