第15話
なんの問題もなくルームサービスを提供した私たちが客室から出てすぐに、向かいの客室のドアが物凄い音を立てて開け放たれて。
驚いた私たちが、一斉にそちらへと視線を向けた瞬間、その部屋から若い女性が飛び出してきた。
そうかと思えば、バッと身を翻して、たった今出てきたばかりの部屋の方へ向き直り、どうやら後を追ってきたらしい男性に向けて、なんの躊躇なく、大きく振り上げた手のひらを振りかぶった。
――うわっ、危ない。
私が思わず目をギュッと瞑ったと同時、バッチーンという男性の頬を打つ豪快な音が響き渡って、直後。
「このっ、変態! こんな縁談、こっちから願い下げよッ!」
ヒステリックな女性の喚き声が轟いた次の瞬間には、その女性は一目散にレベーターの方へと走り去っていったのだった。
――うわぁ、凄いの見ちゃった。
呆気にとられてしまった私がその場を動けずにいると。
さすがはホテルの従業員、こういうことにも慣れているのか、さも何もなかったかのようにワゴンを押して歩き始めた。
ハッとした私もその女性に倣うようにして後ろに続いて歩きつつ、その部屋の前を横切ろうとしていた、ちょうどその時。
部屋の奥に荷物をとりに戻っていたらしい男性がドアを開けて出てきたところに遭遇したのだが……。
まさかのまさか、その男性が『YAMATO』の副社長にこの春就任したばかりの神宮司隼だったものだからびっくり仰天だ。
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