第10話

それは、私がごくごく普通のどこにでもあるような二階建ての日本家屋である我が家の玄関を潜って、靴を脱ぎ、上がりかまちに足を一歩ほど踏み入れた時のこと。


 狭い廊下の先にある居間の方から、だだだだっという足音が聞こえたかと思えば。私の足元にズザザーっとまるでスライディングでもするかのように、私の五つ上の兄である侑磨ゆうまが正座し、額をこれでもかっていうくらい床に擦りつけてきた。


 当然、仕事帰りだし、早く着替えて寛ぎたいから、


「――え!? ちょっと、一体何なの? 邪魔なんだけど……」


そういって、冷たくいい放つも。


「すまない、侑李。まさか、こんなことになるなんて、思わなかったんだ。頼む、許してくれ。いや、許してもらえなくてもしょうがないよな? あー、俺はなんてバカなことを……」


 理由も言わず、泣きそうな情けない声で謝ってきたと思えば。一人ブツブツと独り言のように呟いて、終いには額を擦りつけたままで、両手で頭を抱え込んでしまった兄。


 ーーなにがなんだかよく分からないけれど、嫌な予感しかしない。


「あなたが高梨侑磨さんの妹の侑李さん? いやぁ、突然すみませんねぇ」


 正座したまま、泣き崩れるように項垂れてしまっている兄を前に、困惑しきりだった私の背後から、突如聞いたことのない男の間延びした声が放たれた。

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