第8話

この秘書室には、私を含めて十名ほどの秘書がいて、さっき紹介した主要役員には専属の秘書が一名ついている。


 その他の秘書は、常務より下の役職をチームで兼任していて、私もそのうちの一人だ。


 そんな訳で、私は主要役員の専属ではないので、就業後に会食にお供することも、どこかの祝賀パーティーにお供することもないので、残業と言いっても、そんなに遅くになることもなく、結構快適な社会人生活を送っていた。




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「あれ、高梨じゃん。今帰り?」

「うん、そう。お疲れ様」

「おう、お疲れぇ」


 午後六時を過ぎ、いつものように仕事を終えた私は、社員通用口で同期入社のうちのティーサロンで併設されてるチョコレート専門店でチョコレート専門の菓子職人であるショコラティエとして勤務している木村康介こうすけ(二十六歳)とたまたま一緒になった。


 実は、入社してすぐの頃、店舗に研修中だった頃から、私が片思い中の相手だ。


 でも、勝気で気の強い性格がいけないのか、それとも色気の”い”の字のないところがダメなのか、大抵友達どまりで、異性として扱ってもらえない私は、意中の相手に振り向いてもらえたことがなかった。


 なんなら、この木村君には、彼が片思い中だった、去年副社長との結婚を機に退職した後輩秘書の旧姓綾瀬さんのことで、色々と相談を受けてしまっていたくらいだ。

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