兄と結婚した幼馴染を寝取るまで(カクヨム版)
神楽耶 夏輝
第一章 過ち
第1話 あの頃のボクたちは……
落ち葉がカサカサと重なり合い、歩道を色づける頃。俺はいつものように配信の準備をしていた。
トップページでふと、お勧めの動画が目に留まる。
いつも俺の好みにドストライクの動画を表示してくれるアルゴリズムには感謝しかないのだが。
何かが引っかかる。思わず画面をじっと見つめる俺の脳内には、あの日、あの時の出来事が鮮明に浮かび上がる。
俺が17歳の頃の話だ。
あの日もちょうど、こんな木枯らしが吹き始めた頃だった。
「んんー、あっ、ダメぇ、いやぁ……」
日没の余韻が月光に変わり始める頃の事だった。
うすうすで頼りない壁から漏れ聞こえる音に、俺は一瞬耳を塞いだ。
理性と言うよりは逃避だった。
しかし、それは無駄な抵抗。
掌の隙間から、否応なしに流れ込んで来る舞の甘く官能的な喘ぎ声は、脳を殺すほどの破壊力を持つ。
「はぁ、はぁ、はぁっ、あ~ンッ」
――やめろ、やめろ、やめてくれ……。
そんな、俺の心の叫びとは裏腹に、体は抗えない。五感に従って下半身は素直に反応する。
兄は三つ上。20歳でホスト。
舞は俺と同じ高2。
舞とは幼馴染で、俺は彼女がずっと好きだった。
しかし、舞は幼い頃から兄が好きで、1年ほど前から付き合いが始まった。
俺は気持ちを捨てきれないまま、告白もせず彼女を諦める事を心に誓っていた。
隣の兄の部屋で、毎日のようにセックスに励んでいる二人。俺はその声を聴きながら、自家発電に励んでいる。
そんな日がもう、2ヶ月ほど続いている。
ちゅぱぢゅば……
音だけで、何をしているのか大体想像は付く。お互いの秘部を貪りあっているのだ。
舞は一体、どんな顔で兄の精子を受け止めるのだろうか?
赤く火照った顔で、大きな瞳を潤ませて、半開きの口から、いちごみたいな舌を覗かせて――。
見るからに柔らかそうなペールイエローの肌を、白濁とした液体でどろりと穢すだろうか?
それとも、口の中?
顔か?
溺れそうに歪む、無垢な顔を想像すると、いても立ってもいられない。嫉妬と屈辱と劣等感の三連コンボが俺をたまらなく興奮させた。
「中に……出して……いい?」
おいおい、いいわけないだろ。
身をよじり、仰け反り、呼吸が止まったみたいに硬直する舞の姿を思い描き、力いっぱい射精した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ここは郊外にある古い安アパート、2LDK。
俺の高校入学と同時に、兄弟二人で借りた部屋だ。
実家は、ここから電車でおよそ30分ほどの距離。
別に自宅から通学してもよかったが、俺たちが幼い頃に離婚した母親は、男をとっかえひっかえで、落ち着かない。
しかも連れて来る男は、揃いもそろって若く、金も甲斐性もない顔だけイケメン。
セックスもいいのか? いいんだろうな。
男を連れ込んでは、家にいる俺たちに対して、まるで邪魔者のような視線を向けて来た。
俺たちが家にいようがいまいが平気で男といちゃつき、盛りまくる。
そういうのに、うんざりだったのだ。
金ならある。
美男美女と近所でも評判だった両親のDNAを受け継いだ俺たちは、見てくれだけならハイスペック。
その恩恵を存分に利用して、俺は顔出しで『クロスケ』と名乗るゲーム配信者となった。雑談を交えたライブ配信をすれば高額の投げ銭が飛び交い、年収は軽くサラリーマンを超える。
兄は高校卒業後、進学も就職もせず、ホストクラブに入店し、わずか2ヶ月でナンバー1。
その勢いを保ったまま現在は代表として店を任されている。
なら、もっといい家に住めるだろうと思われるかも知れないが、金の匂いを嗅ぎつけた母親が、たかりに来るのを防ぐため、俺も兄もコンビニでバイトをしながら細々と生活しているという体裁を取り繕っている。
親なんて、もはや契約書の保証人の欄を埋めるだけの存在。
未成年のうちは仕方なかったが、兄が成人した今、それも不要となった。
コンコンと、ドアがノックされた。
「はい?」
急いでティッシュを始末して、ヘッドフォンを被った。
「クロ、お前、飯食うだろ? 舞が作るって」
俺の名前は宮部拓郎。真ん中の二文字を取って『クロ』と呼ばれている。
その名の通り、生まれつき地黒で筋肉質。恵まれた体格だと子供の頃から褒められるが、運動なんかは一切興味がなく、スポーツは何もしてこなかった。
兄は幸四郎。同じく真ん中の二文字を取って『シロ』。
その名の通り、色白で、線の細い体つきをしている。白に近いブリーチカラーの髪にシルバーアクセ、ホスト系スーツがよく似合う。
つまり、顔の造形はよく似ているが、俺たち兄弟は、全く違うタイプである。
母親が、シロちゃん、クロちゃんと呼んでいたので、周囲も自然と俺たちをそう呼ぶようになった。
俺たちはたまにけんかもするが、比較的仲のいいごく普通の兄弟だ。
ドアの前に仁王立ちになっているシロの背後から、ひょこっと舞が姿を現した。
さっきまで激しいセックスを繰り広げていた事を匂わせるような、乱れた髪にラフな部屋着。
ぶかぶかのTシャツはシロの物だ。
裾から伸びる、ムチっとした形のいい生足。白いTシャツからうっすら透けるピンクのブラジャー。少し屈めば、パンティが見えそう。
「ああ食う」
俺は短く返事をして、二人から視線を外した。
こういう状況にはもう慣れっこだ。
舞の家は、うちの実家の近くだが、高校は俺と一緒だから、いつもこうして学校帰りにここへ来ているというわけ。
泊まって、朝、そのまま学校に行くなんて事もしょっちゅう。
舞の家も母子家庭で、母親はうちと同じく舞に無関心。若い男に夢中なのだ。
「オムライス作る! できたら、呼ぶねー」
舞は俺にそう言って、無邪気に笑いかけた。
やがて、リビングは花が咲いたように賑やかになり――。
「クロー、ご飯できたよー」
舞が俺を呼んだ。
何食わぬ顔で部屋を出る。そこはすぐに八畳ほどのリビングになっていて、正方形のテーブルがある。
既に、彩りよく盛りつけられたサラダと、レストランも顔負けのトロトロオムライスが並んでいた。
ケチャップで、可愛らしく名前が描かれている。
『シロ』『クロ』『マイ』
俺たちは、たった2文字で呼び合える単純な関係だ。
しかし、取り巻く事情は複雑で、俺はいつも心の置き場所に迷っていた。
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