1. 謎の小劇団 ②

 ……だって、お父さんは僕を医者に育てるつもりだから。

 お父さん自体が町医者をやっているため、小さい頃から後継者になるように言われ続けてきたんだ。

 お父さんの期待を裏切るように、声優になりたいだなんて言ったら、鬼の形相で反対されるに決まっている……。

「はぁぁー」

 歩きながら、本日二度目の溜息をついた。今回の溜息はさっきよりも大きい。

 いつになったらお父さんに言えるのか。早く言って、楽になりたいのに。


「や、やめてよぉ!」

「うるせぇな! 親切にお前のランドセルを持ってあげてるんだろ?」

「返してよ! 自分で背負えるから!」

 何だ? 何か揉めているぞ? あ、あれは……いじめっ子の野田君? そしてランドセルを取り上げられているのは、須藤君か?

 学校までの途中にある公園で、見てはいけないものを見てしまった。隣のクラスの須藤君が、野田君にいじめられている。

 須藤君は僕と同じで気弱なタイプだから、いじめられそうではあるけど、まさか本当にいじめられている現場を目にするなんて。

 僕は体が固まってしまっていた。

「やめてよ! 早く行かないと遅刻しちゃうよ!」

「いいんだよ遅刻したって。俺はどうせ先生から怒られてばっかりだからな」

「僕は遅刻したくない!」

「何だ? 須藤の分際で、俺に歯向かうって言うのか? 俺に逆らったら、どうなるかわかるよな?」

 須藤君の胸ぐらを掴む野田君。いよいよ殴りかかりそうだ。

 それにしても、野田君は酷い言いがかりをつけている。しかも暴力なんて……野田君は間違いに間違いを重ねているだろう。

 どうしよう……止めないと、須藤君が可哀想だ。

 でも、僕が止めたところで、力じゃかなわないし……殴られたくないし……。

 足が踏み出せないでいる。その足は小刻みにプルプルと震えていた。僕はどうしてこんなにも、意気地なしなんだ。

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