第74話
あんな風に笑うヴェルターを見るのはいつぶりだろうか。王宮を出てからのヴェルターは子供の様で、リティアの胸はぎゅっと絞られたようになった。
「やっぱり、あのセリフ、本当に言うんだなぁ」
リティアはヴェルターの心からの笑顔にアンに夢中だと顔に書いてあるのでは、と思った。可愛い。美しく凛としたアンも今は子供の様に恥ずかしさにむくれている。あんな可愛い顔を見せられたら、ヴェルターもきっとたまらないだろう。
リティアは二人を客観視するように努めた。清麗で柔らかな雰囲気のヴェルターと凛々しくも可憐なアンは二人とも素朴な装いにも関わらず、そこだけ光で照らされているようだった。似合いの恋人そのものだった。
「お似合いだなぁ。ほらやっぱりヴェルターの真珠色は鮮やかな紅と釣り合うの……」
リティアはぼうっと二人を眺めながら、「紅白……。っておめでたい感じ……」と呟いてはっとした。
「何言ってるんだろう」
リティアは立ち上がると、剣をしまっているペールの元へと入った。ペールは近くで見ると更に大きかった。……規格外の大きさにここだけ時空が歪んでいるのかしら、と見上げると、ペールは視線を留めるところを探しているようだった。最も、顔が上の方にありすぎてリティアからもはっきりは見えなかった。だが、ヴェルターの言う通り彼がヴェルターの顔に傷をつかないよう配慮したならば、常識のある優しい人だ。
「あの、私もペールとお呼びしても? 」
「ええ、勿論です」
かすかだが、ペールは微笑んだ。
「私の事も、リティアで結構ですので」
ペールは迷いはあったが頷いた。リティアはきっと呼んでくれることはないだろうと思ったが、それでよかった。
「私も剣を一つ。子供用でないもの。どれがいい。ペール? 」
リティアは気安く過ごすことを決めた。ペールは困ったとばかり眉を下げた。それはそうだろう。アンが持つことも出来なかった剣をアンより小柄なリティアが持つというのだ。ペールは宝飾が美しい、飾るための剣を勧めたがリティアは首を横に振った。ペールは渋々、子供用でない者の中から一番安全な剣を取ってリティアに手渡した。
が、なかなか手を離さず、リティアと無言の押し問答の末、渋い顔をさらに渋くして
「お気をつけて。この刃は切れます」
と、当たり前のことを地鳴りの様に低い声で言った。
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