第45話

ヴェルターがリティアの元へ訪問する日だった。オリブリュス公爵邸、リティアの部屋にはミリーが早くから取り仕切っていた。


「お嬢様、今日は王太子様は長旅でお疲れでしょうからゆっくりお寛ぎいただくために、お嬢様のお部屋にお通ししてはどうでしょう」


 リティアはヴェルターが帰国してすでに日が経っていることは知っていたが特に反論することなくミリーの意見を受け入れた。諦めとも言う。リティアは特別華美ではないいつも通りのリティアらしいドレスで着飾ると、間もなくヴェルターがやってきた。


 ヴェルターがいつものようにまばゆい容姿で、登場すると見慣れたリティアでも見とれてしまう。ぼうっとするリティアにヴェルターは柔らかい微笑みを向けた。


「やぁ、時間が空いて申し訳なかったね」

「いいえ、大変だったでしょう? 」

「いや、そんなこともないさ」


 リティアはマルティンとヴェルターの言葉からこの旅が有意義であったことを悟った。ヴェルターは疲れていてもそれを表には出さない。でも、今のこれは本心だろう。そう思うと旅の話を聞いてみたくなった。特に、アン女王と何かあったのではということを。リティアはどう切り出そうかと思ったが、心配なかった。ヴェルターから話が出たのだ。


「リティ、アン女王から贈り物を預かってるんだ」

「まぁ、贈り物。私に? 」


 ヴェルターから渡された箱からは美しいドレスが出てきた。持ち上げると生地がさらりと流れる。

「まぁ、なんて綺麗なの。真珠のような艶。でも真っ白ではないし、光の加減で少し黒味を帯びているような……。ヴェル、この色、なんて表現したらいいかしら」


 ヴェルターを見上げたリティアは、はっとした。ヴェルターも気づいたらしく、微笑んだままの表情ははにかんだ笑みに変わった。


「さぁ、なんて言ったらいいんだろうね。えーっと、“白飛びしそうな色”」

「ヴェルったら! 」

「ははは」


 ドレスは、ヴェルターの横に並ぶことが想定された色だった。ヴェルターの髪と同じ色だ。リティアはヴェルターがまだ根に持っていることを知り必死で弁解する。


「太陽は眩しくて直接見られないでしょう? あなたはこの国の若き太陽だから! 」

「うん」

 優しく微笑むヴェルターにリティアはますますばつが悪くなって俯いた。頬が赤くなる。見慣れた笑顔が知らない人みたいで、リティアの胸が小さく痛んだ。彼が即位したら、もうこうやって気安く話すこともないのだろうか。彼の隣にこの色のドレスを着て並んでいいのだろうか。

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