第39話

アンの王都への訪問は二度。一度は非公式で、もう一度は建国祭に国賓として招く。どちらにしてもまだ先のことで、今話さないといけないことは他にあったらしい。訪問時にアンが王都で見たいものだ。


「王都ルーイヒは夜の一人歩きができるほど治安が良いと聞きました。それほど国が豊かだということでしょう。ご存じの通り、わが国ラゥルウントは先々代の時世は鎖国状態でした。その間の国民の暮らしは質素そのもの。なんとか自給自足でまかなっていました。ところが、国を開いてから。外国の人がたくさん入って来て、国は潤った。でも、国民の生活に格差が出てきました。治安は前ほどよく無くなり、新しい病気も増えました。本当に悩ましい。他の国に肩を並べ対等に外交をするには、まだまだ未熟で学ばないといけません。あなた方の国は統制のバランスがいい。そこで、あなた方の知識を指南いただきたい。勿論、わが国にふさわしい状態で反映することが目的です」


 至って平和な要望に裏はあるのかと深読みする。アンが欲しいのは内部的な込み入った部分ではない。もともと開けた部分を見たいというだ。拍子抜けする依頼にヴェルターは無意識にじっとアンを見つめていた。にこりと微笑まれれば、ヴェルターは年ごろの男らしく恥じらいを見せた。


 軽く咳ばらいをすると、ヴェルターはアンから逃げる様にアデルモへと視線を移した。アデルモが頷くのを確認するとヴェルターは承諾した。アンは安堵したようにぱっと顔を綻ばせた。ヴェルターは話せば話すほどアンの印象は変わっていった。アンは特に教育に興味があるようだった。


「フリデン王国の国立アカデミーは幼い子供が通うと聞きました。わが国では教育を受けずに育った子供がほとんどなのです。最近では異国人の旅人を相手する闇娼館や、反対に一夜限りで町娘を捨て置く犯罪まがいの者もおりまして、私生児や身寄りのない子供が多くいます。お恥ずかしながら孤児院を出ても、まっとうな職に就けないのが現実です。特にわが国は女性と子供の権利が著しく低いのです」

「王が女性なのに、ですか」

「ええ、ですから今が国を変える機会なのですわ」


 ヴェルターは王家が人身売買との噂が、真逆であったことを理解した。

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