第37話

【紅の女王】


宮殿の案内が終わるとアデルモは、

「このシュテンヘルムはなかなかに美人が多い。君たちも今日が終わるとゆっくりしていくといい。羽目も多少は外さないとな」

 と若い青年たちに声を掛けた。

「叔父上、……まったく。女性に慣れてらっしゃらないのかと心配しましたのに」

「わはは、素晴らしい女性ばかりで選べんのだ」


 夫婦の寝室は妻しか入れないが、といったとこか。ヴェルターは安心したように呆れたようにため息をはいた。

「まったく」

「ヴェルター、お前の方が結婚は早いかもしれないな」

 そう言われて、ヴェルターはうかつにも体を強張らせてしまった。一瞬の出来事だったが勘のいいアデルモには気づかれてしまった。

「何だ。リティア嬢とうまくいってないのか? 」

「そんなわけないじゃないですか」

 ヴェルターは半ば自分に言い聞かせるように言った。

「……そうか。お前たちは幼馴染だからな、男女の意識がなかなか変わらないのかもしれないな」

「いえ、そういうわけでは」

「ん、じゃあ、体の相性か? 」

「叔父上! 結婚もしていないのにそんなわけないでしょう! 」

「は、ううむ。まだなのか? 」

 ヴェルターはカッと顔を赤くした。

「婚約者は結婚するまで関係は持てないのか? いや、でもお前たちは恋人でもあるんじゃないのか? 」

 マルティンはまた話を振られては困ると聞いてない振りをした。もっとも、聞いていいのかわからない話ではある。


「とにかく、私とリティアはまだ、ごほん、慎重に、結婚してからで構いません」

「そうか。まぁ、もう一年てところだもんな。元気か、リティア嬢は」

「……ええ、元気ですよ」

 

 元気か聞かれただけだ、元気と応えればよいものを。ヴェルターは自分の未熟さを疎む。返答に一拍置いてしまった。

「そうか。ならいい。私はお前の幸せを祈ってる。聞き分けが良いのもお兄ちゃんとしては心配なのだ」

「大丈夫です。大丈夫ですよ、僕とリティアは」

 ヴェルターは自分に言い聞かせるように、半ば懇願するようにその言葉を言った。

「そうか、それならいいんだ」

 アデルモは理解ある大人のように頷いた。


 しばし、静かな空気が流れたが

「まぁ、俺に男女のことはわからん。だが寝所のことなら聞いてくれ」

 と言ってヴェルターに睨まれたのだった。

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