第20話
リティアはヒロインだ。少なくともリティアはそう思っている。ただ、悪女が登場するまでの暫定ヒロインだ。リティアの憶測だが、真のヒロインが登場するまでリティアがヒロインとしての役儀を引き受けなければならないのではないか。
リティアの予測が正しければ、年ごろになった今、リティアはこれからどこへ行っても秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会いが用意されるのだろう。そして、彼らはリティアに好意を示す。
それは、困った。その好意にこちらがその気になれば、後に現れた悪女に結局みんな心奪われるのではないか。ど、どうしよう……!
リティアはベッドの上、寝そべってるだけで激しくなった鼓動に、落ち着くように胸を撫でた。そうだ、あわよくば自分の相手を……と思っていたけれど、ヴェルターではなく他の人を好きになって、その人が悪女の想いを寄せることで嫉妬に狂うかもしれないということか。リティアは今気づけてよかったと安堵した。ランハートもレオンも優しいけど、いざとなれば王太子側の人間だ。どうなるかなんてわからない。二人だけでなく、今の人間関係だって、リティアが王太子の婚約者であるからこそもてはやされることも多いのだ。それが、婚約破棄となると、いくら公爵の娘であろうと、背を向ける者も出て来るかもしれない。
とにかく、リティアはヴェルターと悪女様が幸せになってから恋をしようと結論を出したのだった。それから、ヴェルターに対しての違和感についても考えた。ヴェルターは態度に出さないように努めているし、リティア以外にこの違和に気づく人はいないだろう。だが、確実におかしい。リティアは確信していた。ヴェルターはなぜ、リティアに対しての態度が不自然なものになったのか。特にここ最近は会うのが憂鬱になるくらいだ。
ひょっとして、自分が気づいていなかっただけで、ヴェルターはもう悪女に出会っているのではないだろうか。
「……まさかね」
悪女として目ぼしい人はいなかったはず。だけど、王太子とリティアの結婚までそんなに時間があるわけではない。この一年でなにかしら動きがあるだろう。自分は今何ができるのだろうか。
昔のヴェルターは、もっと……。屈託ない笑顔。その笑顔は彼の心のうちが顔ににじみ出たものだった。
「可愛い笑顔だった」
前歯の抜けた決まらない笑顔を思い出し、リティアは笑みが零れた。それから、今のヴェルターのそつのない笑顔が重なって、リティアはふうっと息を吐く。
「相変わらず、神々しいまでの容姿よね」
それから、対照的なシュベリー卿の黒髪を思い出した。彼もまたヴェルターとは真逆の色合いなのに神々しく見えた。
不思議ね……、初めて会った人に懐かしい、なんて。リティアはいつの間にか意識を手放し、眠りについた。
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