第21話 話は思ってもいない方向に?
アルパモント殿下は国王の執務室に出向く。
扉の前に待機している護衛騎士に言う。
「国王陛下に至急の用がある。時間を頂きたいと取り告げ!」
すぐに護衛騎士が側近に取次ぎ中に私たちは招き入れられた。
「どうしたアルパモント?」
国王は執務机の向こうから聞いた。
「国王お話があります。事は9年前の話です。まずはこちらにお座り下さい」
アルパモント殿下は国王をソファーに座らせそれを取り囲むように殿下、私、ヴィオレッテ公爵は拘束されて一番離れた位置に座らされた。
ルドルフは私の座っている一歩後ろで待機している。
「一体何事なんだ?それにブリューノがなぜ拘束されている?」
「彼は妻殺しを告白しましたので拘束しています。そんな事より9年前の事と聞いて何か心当たりはありませんか?」
「はて?いったい何のことかさっぱりわからんが…」
国王は首をかしげている。
そこに扉がノックされた。
「アルガン殿下と王妃様達が参られました」
「ああ、入ってくれ」
アルガン殿下と3人の王妃たちが入って来る。
「兄上どうしたんです?火急の用とか」アルガン殿下が慌てて聞く。
「そうです。アルパモント一体何事です?」アンナ王妃も。
「まあ、皆さんも座って下さい。事実確認をしたいのです」
ひとり掛けの椅子が用意されてぐるりと囲むように4人が座った。
アルパモント殿下は9年前の事を王妃たちに聞いた。
「ええ、よく覚えてるわ。でも、これは箝口令が…」アンナ王妃が言った。
「では母上は知ってるんですね?ソルティ嬢の話で大まかな事実はわかりました。でもそれが事実かどうかが知りたいのです!あったことをすべて話してください」
「ええ。あれは国王が…」
アンナ王妃が国王をちらりと見た。
「コホン…」
国王は首を横に振って言うんじゃないぞ!みたいな顔をしてアンナ王妃を睨みつけた。
「母上。この際父上の事は放っておいていいです。事実を話して下さい!」
「アンナ!アルパモントの言うことを聞くんじゃない!いいから黙っていろ!」
「父上。相当都合の悪い事なのですね。いいからあなたは黙っていてください。それともヴィオレッテ公爵のように拘束しますか?」
「お前は国王に向かって何を言うか!近衛兵。アルパモントを捕らえよ!」
国王が大きな声で近衛兵を呼びつける。
緊迫した状況に近衛兵がばたばた入って来て一気に色めき立つ。
ルドルフも腰の剣に手をかけていつでも対応できるよう構えを取る。
「近衛兵。お前らは少し下がっていろ。私は父や母と話をするだけの事。これは身内の話だ。いいから下がれ!」
「ははっ!何かあればすぐに参りますので」
アルパモント殿下の一声で近衛兵はさっと身を引いた。
「ああ、わかっている」
アルパモント殿下は一度大きく呼吸をした。
「それで母上、話の続きを聞かせて下さい。これはとても大切な話です。国王とはいえ罪を犯すことは許されません。もしそれをうやむやにするような国であればそれはもう司法国家として成り立ちません。この国をそんな国にしていいと思いますか?」
アンナ王妃の目が大きく見開かれる。
「そんな事は思っていません。アルパモント私が間違っていました。9年前国王はヴェロリーヌ公爵家の奥様ナーシャ様を辱めたのです。それを知ったのはナーシャが目を覚まして大騒ぎをした時でした。その部屋は王族しか入れない部屋でその部屋から国王が出て行くのを使用人が見たのです。ナーシャ様は薬で眠らされたようで顔や身体には殴られた跡がありました。私は当然陛下に怒りをぶつけました。ですが陛下は事を荒立てれば争いが起こるかも知れんと言ったのです。当たり前でしょう。ヴぇロリーヌ公爵家が反旗を翻すとなれば他の公爵家も黙ってはいない。そうなってはこの国は戦争になるかもしれないのです。私たち王妃は話しをしてこれ以上の事は何も言わないことを決めたのです。そうこうしているうちにナーシャ様が自殺したと知らせがあったのです。私たちは後悔しました。彼女を救えなかった責任は私たちにもあったのですから…」
「ええ、では、ヴぇロリーヌ公爵夫人の事は事実なのですね?」
「そうです。国王は罪を犯したんです。きっと他にも黙って耐えるしかなかった女性がたくさんいるはずです」
「そうでしょうね。では、母上はヴィオレッテ公爵夫人が亡くなった理由を知っていますか?」
「いいえ、病気だったと伺っています」
「実はソルティ嬢の話からヴィオレッテ公爵夫人はここにいるブリューノ。あえてヴィオレッテ公爵とは呼びません。彼が首を絞めて殺したというのが事実なんです。話によると彼女はナーシャ様の事を告発しようとしていたそうです。それでブリューノがそれを止めようとして首を絞めて…」
そこにたまらずブリューノが口をはさんだ。
「殺すつもりはなかった。ただ、黙らせようとして…私は頭に血が上っていて力任せに首を絞めて…そしたらダイアナ(ブリューノの妻)が動かなくなったんだ。それで仕方なく病死と言う事に…だってそうでしょう?ソルティだって母親を殺したのが父だと知ればどんなに傷つくか…仕事も放りだすわけにはいかなかった。私は国の安全を守るのが務めで…こんなはずではなかったんだ。こんなはずでは…」
ブリューノは泣き崩れた。
みんなはそれを固唾をのんで見守る。
ただ、一人声を荒げたのは私だった。
「そんなの言い訳よ。母は正しい事をしようとしていた。あなたが間違いを正すべきだったのに…国王は間違いを犯した。それをきちんと償うべきだった。でも、それをしなかったし周りもそれを許したのよ。母はそのせいで犠牲になったのよ。もう、こんな所になんかいられません。私はもう失礼します。この先はアルパモント殿下にお任せしていいですか?」
私は耐え切れなくなって立ち上がった。
「いや、ソルティ君も最後まで見届けてくれ。私はこの国を正しい方向に導きたい。そのためには国王には辞してもらうつもりだ。ブリューノにも罪を償ってもらう。そして新たな国を始めたいんだ。私は決めた。君のような人こそこの国の再建に必要な人だ。どうか私に力を貸してほしい」
「そんな…アルパモント殿下私を買いかぶり過ぎですよ。私にはそんな事無理ですから」
そこで口を出した男がいた。
「殿下。ソルティお嬢様は素晴らしい方です。自分の考えをしっかり言うしその考えを貫くんです。こんな女性見たことないです。俺、お嬢様だったら命捧げれますから、そんなお嬢様はこの国の立て直しに必要です。だからお嬢様うんと言って下さいよ」
ルドルフがソルティにそう言って頼んだ。
アルパモント殿下の視線がルドルフにじっと向けられている。
「うん?」
アルパモント殿下が動いた。
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