第10話 アルフォンの言い分


 そもそも俺はジャネットとそういう関係になる気はなかったんだ。


 わかるだろ?女とそんな関係になるといちいち面倒なんだ。


 ジャネットとは気の合う友達としていい関係だったし、決まった婚約者がいたし、そもそも学園を卒業して結婚してからはほとんど会うこともなくなっていたんだ。


 でも、ジャネットの夫が浮気をして離婚した事で何かが狂った。


 傷心のジャネットが俺を頼って来た。


 最初は友達として放っておけないって思った。


 でも、可愛かったジャネットは艶っぽい色気をぷんぷんさせて俺の所にやって来た。


 「アル…聞いてよ。私、そんなに魅力ない?どうしてアーロンが浮気したと思う。これでも私はアーロンに尽くしてきたのよ…」


 結婚して相手が浮気をしていたとわかって破局。よくあることなのだが…


 ジャネットは美しい紫色の瞳からは涙がぽろぽろ零れ落ち俺の腕に縋りつくように身体を任せて来た。


 もちろん大人になった俺はそれがどういう事なのかすぐに分かったんだ。



 俺は受け止めるようにジャネットを抱きかかえた。


 「ああ、ひどい話だ。ジャネットが悪いんじゃない。あいつがバカなんだ。こんな美しい女性をみすみす逃すような真似をするなんて…きっと今頃後悔してる。さあ、元気を出して」


 「ほんとに?ほんとにそう思う?」


 腕に食い込むようにジャネットの指先に力が籠る。見上げる顔は泣きはらした目が痛々しいのに股間は反対に逆にむらむら燃え上がった。


 ああ…ジャネット。君はあの頃のままほんとに…


 俺だってあの頃何度もジャネットをおかずにして解消したかしれない。


 そんなジャネットが今目の前に…それもいただいてくださいって?


 こんなの我慢しろって方が無理だろ!


 何かがプチンって切れると箍が外れるのは早かった。


 「そう言ってくれるのはアルフォンだけよ。あなたのそばにいたい」


 「ああ、いいとも」


 「しばらく家には帰りたくないの。あなたの所に行ってもいい?」


 「ああ、好きなだけいるといい」


 「でも…」


 「いいから遠慮するな。俺達友達だろう?」


 学園時代の頃みたいについ気軽にそう言った。


 それからジャネットはすぐに関係を持った。


 すぐにジャネットが俺から離れなくなった。


 ただ、俺は自分は婚約しているしいずれはジャネットとは別れるつもりだし、手ごろに女を抱けるから都合がいいと思っただけなんだ。


 でも、妊娠なんて…ジャネットは避妊はきちんとしていると言っていたから俺はまるっきり彼女を信じていた。


 ほんとに油断していた。


 女は汚い生き物だって知ってたはずなのに…


 幼いころから母親が国王に媚を売り王妃たちにへつらうくせに俺の前では散々罵る。


 そんな表と裏を見て来たアルフォンは早くから女には裏と表の顔があると悟った。


 だから女は信用していないし結婚しても相手に気を許すつもりもなかった。


 でも、これはまずった。


 父に何て言えばいい。


 ★***★


 俺は23歳。今まで自分が王子に生まれていいと思った事はなかった。


 確かに国王の子供ではあるが上には4人も兄がいて姉も2人いる。


 まして自分以外の母親はどれも身分の高い隣国の王女や貴族の令嬢ばかり、兄姉からは疎んじらればかにされいつも目の仇にされた。


 ほとんど期待もされずスペアのスペアにすらならない子供なのだ。


 それでも学園に通うようになると自分を王子として扱ってくれる友人が出来た。


 公爵家の次男マット・ヴェロニーヌや伯爵家の嫡男のドリス・リスティーネ


 子爵家のジャネット・スベトラーナや富豪の商家の娘のナタリー・メイロットなどたまたま同じクラスになったのがきっかけだった。


 俺は学園の男がほとんど専攻する騎士練習生コースを受けなかった。


 マットやドリスも同じだった。ドリスは卒業して跡取りとして領地経営を学ぶことになっていたし、俺とマットは騎士練習がめんどくさかったのが理由だった。


 それでいくつかあるコースの中から経済学コースを選択した。


 父からは何も言われなかった。まあ、あの人と会うのは年に数回ほどだったし…俺の事など気にかけてもいないんだから。


 ジャネットは父親から言われてナタリーは一人娘なので家を継ぐためだろう。



 ジャネットはとても可愛らしい女性だった。


 同じ学園の中でもひときわ可愛らしく目立っていた。


 マットやドリスもジャネットにまとわりつき彼女の興味を引こうと必死になった。


 ナタリーはジャネットの友達でふたりはいつも一緒に行動していた。


 そしていつしかジャネットを取り囲む集団が出来ていた。


 それが俺を含むマット、ドリス、ナタリーだった。


 もちろん彼らは俺が王子と言うことで最優先の扱いをしてくれる事も俺には心地よかった。


 俺達の間ではいつしか男女の関係を持たないみたいな暗黙の了解みたいなものがあった。


 学園生活は5人と共に楽しい時間を過ごした。学業などはそっちのけで声をかけて来る女性の誘いも断ることはなかった。


 だが、学園を卒業すると俺は父から騎士隊に入隊することを命じられる。


 マットも同じように騎士隊に入隊することになりドリスは伯爵家の領地に行く事になった。


 ジャネットには婚約者が決まりナタリーにも決まった相手が出来た。



 それから俺は主にマットの行動を共にするようになった。


 マットは一応王子である僕を立ててはくれるが行動を起こすのはいつもマットが先だった。


 俺は幼いころから引っ込み思案でどちらかと言えば誰かに言われて何かをするタイプだった。


 自分から何かしようなんて思った事は多分ない。


 マットは全く逆のタイプで興味のあることには一番にやって見たい行動力のあるタイプだった。


 いわゆる目立ちたがり屋。


 学園を卒業して騎士隊に入ると男ばかりの世界で確かに騎士隊でも訓練や規律は厳しかったが、自由な時間にはやはり男の性を吐き出すとも必要だとすぐに娼館通いが始まった。


 マットは行動力もあるので先輩たちと意気投合して娼館にも出入りするようになる。すぐに馴染の店に馴染の女が出来た。


 そしてそのおまけのように俺も娼館通いを始めたし、街で声をかけて女と遊ぶ事も覚えた。


 それは婚約してからも続いた。


 だってソルティは手も握らせてくれない。男には解消しなければならない性があるって知らないのか?


 まあ、ご令嬢は純潔が絶対って思っていることは知っていたから、それ以上無理強い出来ないこともわかってはいた。


 だから、最低限の付き合いはして来たつもりだ。


 まったく、こんなの予定外だ。


 王子の妻が再婚者だなんて…兄姉が聞いたら何て言われるか…父上にだってなんて説明すればいい。


 おまけに王妃たちも騒ぎ立てているなんて。


 悪い事にジャネットは第3王妃の姪になるからな、こんな事なら彼女と関係なんか持つんじゃなかった。


 俺は頭を悩ませた。


 まずはソルティにもう一度話をするべきか?


 とにかくこんな予定じゃなかった。


 でも、よく考えればソルティにだってそんなに思い入れがあるわけでもない。


 ただ、父がうるさいからって思うだけなんだ。


 ったく!!




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