第4話 4番目*耕作が好きなもの
そんな兄と姉を持つ俺の元に見えた、一筋の光。
それが三男の耕作だった。
異常なほど人の愛を受け止める陽兄と異常なほど人の注目を浴びる瑠璃姉。
俺は平穏を求めていた。
年子の耕作は比較的、俺の目の届く範囲で、いつも俺の後ろをついてきていた。
俺は弟を可愛がった。
陽兄や瑠璃姉の魔の手から自分なりに極力守った。
耕作には普通に育って欲しい。
しかし、そんな俺の想いは耕作が五歳を迎えるあたりで、もろくも崩れ去る。
「オネーサン、おれとケッコンしてください!」
「れみちゃん、だいすき!ケッコンしよう!」
「ももえちゃん、かわいい!ケッコンして!」
耕作は幼稚園に通う女の子と先生、全員に告白した。
その後も耕作の女好きは加速の一途をたどる。
小学生の頃は毎日、女の子たちへのプレゼントと言って道で花を拾い集めたり、色んな女の子に告白したりしていた。
中学の頃、耕作からしたら一つ上の、俺の同級生の一番人気だった女子が冗談で「屋上からバンジージャンプしたらキスしてあげる」
と言ったら、本当にして、命綱にしていたロープが切れて、耕作は全治3ヶ月の大怪我を負った。
耕作の入院中、さすがに責任を感じたその女子が謝りに病室に来たときの第一声。
「佐々木先輩、キスしに来てくれたんだ!ありがとう!」
病室にいた俺はその言葉を聞いて、耕作のアホを受け入れる覚悟を決めた。
耕作は女にモテることをモチベーションに、ありとあらゆることを頑張った。
ただ、悲しくなるほどアホな耕作は頑張りが裏目に出て、警察の世話になったり、教師に呼び出されたり、先輩にボコボコにされたりしていた。
その全てがいつも、女の子にモテるためだった。
女の子の彼氏にボコボコにされた耕作の怪我を瑠璃姉が珍しく治療してあげた時、耕作が言い放った言葉を俺は忘れない。
「あんた、いい加減にしなよ。
このままじゃ女の子のために、いつか死ぬことになるよ?」
「俺が死んだら、その子は俺のこと好きになってくれるかな!」
容姿が悪いわけではなかったが、その異常な執着とアホさは女性からすると狂気だったようで、中学時代、耕作に彼女が出来ることは遂になかった。
高校受験のときに、耕作の女好きを心底心配した瑠璃姉が、半強制的に男ばかりの工業高校に進学させた。
環境が環境なだけに、さすがに耕作の女好きも改善されると思っていた俺たちは考えが甘かった。
「俺、ガールズバーでバイトすることにした」
耕作は16歳の時、20歳と年齢を詐称してガールズバーの黒服としてバイトを始めた。
そして、働いてる女の子たちに次から次へと手を出して、店長にボコボコにされてバイトをクビになった。
運ばれた病院に俺と陽兄が駆けつけた時も、耕作は熱心に看護師さんを口説いていた。
その看護師さんは駆けつけた陽兄を見た瞬間、陽兄に連絡先を渡していたけれど。
そして、そんな耕作が女の子と同じくらい好きなもの。
それが、兄の俺だった。
「はっ?!兄貴がクビ…?!
なんで世界で一番、かっこよくて優しくてイカしてる兄貴がクビにならないといけないんだ?
そんなこと決めたやつ誰だ?俺、殺しに行ってくるわ」
「耕作やめて。お願いだから立ち上がらないで」
「俺は!!!
兄貴の為なら、この命は惜しくないぞ!」
いつも問題を起こしてばかりの耕作を常に庇ったり守ったりしてたし、意地悪ばかりの陽兄と瑠璃姉と比べれば俺はいつも優しかった。
学年も一つしか違わないから近くにいることが多かったし。
耕作の愛情の矛先は俺にも向くこととなった。
それ自体は全然問題ないのだが。
「……あれ、兄貴、携帯なってるぞ」
「あぁ、ほんと、」
「梅じゃねぇだろうな?」
耕作が俺のスマホを奪いあげ、表示された名前を見て大きな声を出す。
「ぅおい!!!!梅じゃねーか!!」
「そりゃ連絡くらいくるよ、梅ちゃんは俺の彼女なんだから」
「なんで?!なんで兄貴に梅から連絡がくるんだよ!」
「お前言ってることめちゃくちゃだぞ……」
俺が彼女にLINEを返すと、耕作は俺のスマホを奪って彼女にLINEを打つ。
いま耕作といるから邪魔しないで。
「おいっ!何打ってくれてんだよ!」
「事実だろ!
俺と兄貴の大切な時間を邪魔すんなよ!」
「俺と彼女の大切な時間を邪魔するな!」
俺の言葉に露骨に落ち込む耕作を見て、俺は慌てて耕作の肩を叩く。
しばらくすると、きっ、と顔を上げて、お気に入りのキャップを被った。
「もういい!!ナンパ行ってくる!」
「あ、あぁ……。いってらっしゃい」
「今日も一人でも多くの女の子に可愛いを伝えるのが俺の仕事だ!!!」
三男の耕作は女の子と俺に全身全霊を注ぐアホなせいで定期的に俺の平穏をぶち壊す。
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