第2話 1番目*陽兄の悪い癖

我が家の長男、八代陽は全てにおいて完璧な男だった。


ルックスがイケてるのはもう、オプションみたいなもの。

全国模試ではしょっちゅう1位、バドミントンでインターハイ出場。

学生時代の運動会や体育祭では1位以外取ったことはないし、家の壁には陽兄の賞状やトロフィーが所狭しと飾られている。


もはや所狭すぎて、捨てたものも数多くある。


それから陽兄は運と勘が異常に良い。

懸賞は応募すれば何かしらが必ずと言っていいほど当たるし、ポーカーや麻雀でも負けているのを見たことがない。


ただし現金が懸かると、なぜかその力は発動しない。


競馬や競艇、パチンコみたいなギャンブルは大外れもしないが、大当たりもしないため、本人は大嫌いみたいだ。


陽兄が赤信号に引っかかることはほとんどないし、おみくじは引けば大吉。



俺の運を持っていったのは陽兄だと思っている。



俺が中学の頃好きになった女の子を家に連れてきた時、陽兄に一目惚れしたという理由でフラれたりもしたが、今では良い思い出だ。


……いや、格好つけた。



トラウマである。



そんな陽兄は現在25歳。

去年とうとう会社を設立した。


社長という仕事は陽兄にとって天職だったようで、ものすごーく上手くいってるようだ。



俺が職を失ってる一方で、兄はこんなに上手くいってるんだから、兄弟なんて本当、ただの関係性でしかない。



そんな兄の悪い癖は。



「あ!陽様!隣にいる男の子だれ?」


「すみれ。久しぶり。これは俺の弟だよ。

また、なんかあったのか?」



陽兄に言われて、車で向かった駅のロータリーで、俺と同い年くらいの女の子が陽兄を見かけて駆け寄ってきた。


女の子は、小さく頷くと唇を噛み締めて泣きそうになる。



「……すみれ、おいで」



陽兄は車の後ろの扉をあけて、女の子を乗せてあげた。

車に乗ると同時に女の子は涙を流して泣き始める。



「さっき撮影だって言われて向かったら、男の人たちに襲われかけて、……逃げてきた」


「え?!にげてきた、って、」



「空、車出して。

すみれ、そいつらから名刺もらってたら俺に一枚ちょうだい。

連絡が来たやつの連絡先、俺に送れ」



すみれと言われた女の子は号泣しながらスマホを触る。


陽兄はその電話番号を見ながら、誰かに電話をかけている。



「陽兄、これどこに向かえばいいの」


「警察署に決まってるだろ」


「このために、車に乗ってこいって言ったの……?!」



陽兄はすみれちゃんの頭を撫でながら、あっけらかんとした顔で頷くと、今日の天気を話すように言った。



「だって、すみれが困ってるんだから。

助けてあげないとだろ」



陽兄は信じられないくらいのお節介なのだ。



「困ってるかもしれないけど……!」


「あ、藤子弁護士?一件依頼してもいい?」


「ちょっと俺の話、」



「すみれ、弁護士さんと少し話せる?」



そんな訳で陽兄は自分の運の良さを差し引いても余りあるくらい、常にトラブルに巻き込まれている。

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