私の、僕の、幼なじみ

柚美

プロローグ

第1話

私の毎日のルーティーンは決まっている。



「おはようございます。今日はゆっくりなんですね」



「あら、莉音ちゃんおはよう。そうなのよ、たまにはね。それより、毎日ありがとうね」



「いえ、大丈夫です」



珍しくキッチンにいるおばさんに挨拶をして、二階へ続く階段を上がる。



通い慣れた家に、上がり慣れた階段。



そして、言い慣れた言葉。



「起きろー、寝坊助ー。遅刻するよー」



ベッドの上で盛り上がった掛け布団に、手を置いて軽く揺する。



反応がなく、ため息を吐いて仕方なく布団を掴む。



剥がすと、丸まって眠るいつもと変わらない姿。



でも、やっぱり無駄に成長した大きな体がそこにある。



「陸っ、ほらっ、起きなさいってばっ。私まで遅刻するでしょっ!」



「んー……」



大きな体がモゾモゾと動き始める。



出会った頃に比べて、私達はだいぶ成長した。



でも、変わらないのは、この関係と。



「莉音ちゃん……おはよー」



この無駄にいい顔面が作り出す、綺麗な笑顔だ。



「眠い……莉音ちゃんも一緒に寝よ?」



言って、幼なじみである目の前のポヤポヤしている男、陸が私の手を取って引く。



よろけそうになるのを、何とか踏ん張って耐え、陸の頭を小突いた。



「なっ、何言ってんのよっ! 起きたらさっさと準備して、ご飯食べる時間なくなっちゃうわよ」



「……はーい」



小突かれた頭を撫で、陸は嬉しそうに笑う。



何が嬉しいのか分からないけど、私はどうしてもこの頼りない幼なじみの世話を、焼かずにはいられないのだ。



陸を可愛がる優しい姉のいる彼に、捨て犬のような目でお願いされたら断れないし、困っていると助けてしまう。



周りに甘い、過保護と言われても、放って置く事が出来ず、高校生になってしまった。



ある意味、私の弱点なのかもしれない。



影で“保護者”や“お母さん”なんて言われている事くらい、私だって分かっている。

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