貧乏な私が裕福な悪女に転生してしまいましたが、溺愛もされているので残りの人生楽しみたいと思います【ジェード編】
柚美。
プロローグ
第1話
私は一度死んだ。
そして、転生しました。
そう、今よくある設定の“悪女”というやつに。
ただのモブでしかなかった私には、そんな大役無理だ。
主人公じゃないだけマシだけれど、悪女も無理だ。
どうしたらいいんだろう。
何て考えていても、どう足掻いた所で今更どうにもならない。
悪女として生まれてしまったのだから、諦めるしか道はない。
ただ、何も悪女でいる必要はないんだという結論に至った。
せっかく第二の人生を手に入れたのだから、幸せになってやろうじゃないか。
(……なれるか、な……?)
そして、そんな自信の崩れる中、私が六歳の時に屋敷に執事見習いとして来た、同じ歳のジェードに出会う。
艶々サラサラの黒髪に、透き通るような白い肌。左の目元にあるホクロが魅力的で、硝子玉のような瞳を揺らして頬を赤らめている。
あまりに綺麗な男の子を初めて見た私の、小さな胸が高鳴った。
右手を左胸に当てて、私の足元に跪いた。
「お初にお目に掛かります。今日から執事見習いとして、セレア様にお仕えさせて頂きます、ジェードと申します。未熟者ではありますが、何卒よろしくお願い致します」
自然な口調でスラスラと難しい言葉を並べて、差し出した私の手の甲に口付けた。
小さく微笑んだ美しい微笑を見た時に、この子は将来物凄い大物になると確信した瞬間だった。
その日から、彼はずっと私と行動を共にする事になる。
何をするにも一緒で、頼りになる彼はまるで兄のように私を助け、見守ってくれた。
そんな彼を、何故セレアは虐めていたのだろう。
私にそんな酷い事は出来ない。
いくら両親が一緒にいなくて、寂しいからと言って、彼は何もしていないし、悪くないのに。
「ジェード、いい加減普通に話して」
「いえ、私はただの執事見習いで、貴女は私の主ですから」
私がどれだけ言っても、これだけは絶対聞き入れてはくれない。
だから、私は初めて自分の魅力を使う事にした。
ありがたい事に、この世界の私、セレアは素晴らしい美貌の持ち主であり、また十代になったばかりなのに妙な色気があった。
何もかもが前の私とは違った。
「じゃ、二人の時だけでいいから、ね? ダメ?」
すぐに隣に立つジェードの体に、少し自らの体を擦り付けて、私より背が高いジェードを上目遣いで見上げて首を傾ける。
一瞬目を見開いたけれど、すぐにいつもの微笑みを浮かべたジェードが、私の髪を撫でた。
「まったく……貴女は何処でそんな魅力的な誘い方を覚えたんです? 純粋な貴女に、そんなふしだらな事を教えた者が許せないですね……」
綺麗な硝子のような目を細め、子供とは思えない妖しい笑みで笑うジェードに、心臓が跳ねた。
吸い込まれそうな瞳が、熱を帯びて揺れる。
頬が赤くなるのが分かり、少しだけ目を逸らすと、ジェードが苦笑する。
「仕方ない。貴女にそこまでしておねだりされては、聞かないわけにはいきませんね。では、二人の時だけですよ?」
遊んでいた髪に軽く口付けて、ふわりと笑った。
その日から、彼は私に色んな顔を見せてくれるようになった。
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