気だるげな彼は、戸惑い彼女に求愛し、溺愛する

柚美。

プロローグ

第1話

いつも通りに起きて、いつも通りに弟の世話をして、いつも通りに準備して、いつも通りに登校する。



地味で代わり映えしない私、七彩冴香ななせさえかの日常。



けれど、私は退屈にも見えるこの毎日を、結構気に入っている。



「冴香っ! こっちこっちー」



「おはよう、冴香」



「おはよう、唯、莉央奈」



通学路で合流した友人、峯崎唯みねさきゆい観田莉央奈かんだりおなに、いつも通りに挨拶する。



三人並んで他愛の無い話をしながら歩く。



だいぶ春らしさが濃くなった火曜日。



「冴香、寝癖ついてるー。鏡いる?」



「ありがとう。でも私の髪簡単に直らないし、トイレで直してくるよ」



教室について莉央奈の言われ、荷物を置いてからトイレに向かう為教室を出た。



───ドンッ。



誰かとぶつかり、よろけてしまう。



「っと……ごめん、大丈夫?」



腕を掴んでもらったおかげで、倒れなくてすんだけれど、鼻を打ってしまった。



目線の先は、男子生徒の胸元だった。



背が高い彼を、自然と見上げる形になる。



色素の薄い茶色の柔らかそうな髪と、気だるげで眠そうな、それでも意志の強そうな目が印象的で綺麗な顔の人。



「鼻、赤くなってる、マジでごめん」



「っ!?」



掴まれていた手が離され、代わりに顔が両手で包まれる。長く綺麗な指が鼻を優しく撫でた。



まさかの距離の近さ、出来事に動けないでいると、その彼の後ろから同じくらい長身の男子生徒が顔を出した。



艶のある黒髪に、目鼻立ちがハッキリしている優しそうな、明らかにオシャレでモテそうな人だ。



「ちょっ、お前何してんのっ!? その子固まってんじゃんっ!」



「え、だって、ぶつかったの余所見してた俺が悪いし、鼻が赤くなってるから……」



彼の手が離れ、顔に熱が集まるのを感じる。



何が悪いのか分からないとでもいうように、眉を下げて頭を軽く掻く。



「つか、お前が女子に自分から触るとこ初めて見たわ」



「あ、ほんとだ。何でだろ……」



彼は不思議そうに、カーディガンから半分出た自分の手を見て、私に視線を戻す。



「え、あ、あのっ……」



そして、首辺りに顔を近づける。



後退るように、壁に背を付ける。



「おい……お前、また何して……」



「何か……甘い匂いする。ねぇ、何か付けてる?」



「へ……な、何も……」



どうしたらいいか分からず、とりあえず首を横に振ると、何かを考える様に眉を顰める。



やっと体が離れて安堵していると、頭に影が落ちる。



「寝癖ついてる……何か、君、可愛いね」



もう頭がパニックで、何も答えられずにただ顔を赤くするしかなかった。



寝癖の部分を撫でられるけれど、彼の表情はずっと真顔である。

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