第4話 異世界転生したけど無一文だった件

 おはよう太陽。


 いつもは目覚ましが鳴って起こしてくれるが鳴らない……つまりは今日は休日を意味している。

 ようやく1週間が終わったと思うとすげぇ休日なのに疲れた感じになっちまった。

 部活している奴らは休日すらも部活に捧げるんだろ、体力すげぇよ。


 とりあえず1階のリビングへ向かって朝食作らねぇとな。


 そう思い部屋のドアを開けたらなにやらリビングからTVの音が聞こえる。

 花火はもう起きているのか。


 あくびをしつつリビングへ向かうと予想通り花火がテレビを見ながら納豆にご飯と味噌汁、奴豆腐やっこどうふというTHE定番を食べていた。


「あっにぃさん。おはようございます」

「おはよう花火、今日は先を越されたな」

「そんな事は無いですよ平日はいつもにぃさんに任せっきりですから」


 そう言って食事途中にもかかわらず立ち上がろうとしたが俺は制止した。


「大丈夫だって、朝食位自分で用意する」

「そうですか……でも花火だってにぃさんの世話をしたいんですが……残念です」


 そんな朝食ごときに寂しそうな顔をするなよ。

 朝食のごはんがよそいづらくなっちまうだろうが。

 とりあえず花火の表情を見ずに朝食の用意をする。


 2人でのんびり食べながらテレビを見ていると珍しく近所で珍しい現象が起きているようだ


『沖縄の夜空を舞う1枚の布、これが一反木綿いったんもんめではないかとSNS上に投稿され物議をかもしだしています』


 動画が流れるがを見る限り夜の暗い所を飛んでいる布のような何か……ってかここ近所じゃないか?徒歩五分圏内の所だ。

 しかし一反木綿いったんもんめっぽい様なそうでないような?言われればそう見えるって感じだ。


「すぐ近くの場所がTVで放送されるとちょっと嬉しいですね」

「そうだな、なんか俺たちもTVの仲間入りしたみたいな感じがする」


 最近はフェイク動画の精度も上がっているしそれ何じゃないかとそんな風な感想しか出なかった。


「そもそも日本の妖怪が沖縄にいるのでしょうか?」

「だよなぁ。あってキジムナーの悪戯だろ」

「ですよね」


『続いて次のニュースです。口論の末、夫が妻を殴り暴行の容疑で逮捕です』


物騒ぶっそうななニュースだな。」

「そうですね……あれ、これも近所ですね」


 映像が流れた場所はまたもや同じ様な場所だった。


「まじで物騒だな……花火、来週から俺と一緒に下校げこうしようか?」

「にぃさん。嬉しい申し出ですが、遠慮しておきます。花火のせいでにぃさんの時間が奪われるのはちょっと……」

「そうか、まぁその気になったらいつでも言ってくれ」

「はい、想ってくれてありがとうございます。にぃさん」




 それから朝食を片付け、俺的に今日は家でゴロゴロしようと決めていたさなか、花火から提案を受けた。


「今日は折角のお休みなので、消耗品しょうもうひんの買い足しをしたいのです。さすがに1人では量があるので手伝いをお願いできませんか?」


 家の事である為、断る理由がない。


「そりゃ家のことだしな。日がまだ昇ってない内がいいな。さくっと行ってこようぜ」

「そうですね」


 -


 買い物と言うわけで俺たちは為又駅びいまたえきまでやってきた。名護なごの中心商業地区である為、人通りも結構ある所だが、休日と言う事もあり、さらに賑わいが増していた。


「とりあえずジャストでいいか?」

「いいえにぃさん。ジャストはちょっと価格が高めです。基本水曜日のセールか平日の場合は基本的にPBプライベートブランド以外は手をつけてはダメですよ。まず日用品にちようひんはコングで買います。それからお菓子はダイナックス、食材関連はピッグがよいかとおもいます。ドラッグストアの林も冷凍食品についてはお買い得です」


「……全部一緒の所の方が時間的に効率良くないか?時は金なりって言うだろ?」

「それはありますが……にぃさんは花火と早く離れたいんですか?」


 悲しそうな表情をする花火。うーんこれはズルい。


「わかったわかった……そんじゃその流れで買い物していくか」

「はい、にぃさん」


 それから俺たちは各店を回り、買った商品は駅前のロッカーに預けて次の店へ行くといった流れを繰り返し日用品やら食材やらを買いそろえていく。


 するとどうだ……


「買いすぎたな」

「買いすぎましたね」


 大量の買い物袋が仕上がるわけだ。

 うーんこれはタクシー拾うか?


「うーんここでドロたく使う予定は無かったんですが」


 花火から聞き覚えの無い単語が飛び出してきた。


「すまん花火、ドロ宅ってなんだ?」

「ドローン宅配たくはいの略字ですよ。荷物をドローンが自宅まで運んできてくれるんですよ。ほらあの牛丼チェーン店の隣に」


 よく見たら緑のホログラムで『快適ドローン宅配まごころ(株)』と言う会社名で本当にあったドロ宅。


 しかし料金がそこそこ高いな。自宅までには1300円かかってしまう。タクシーでは大体初乗り込みで1000円ちょいでつく300円くらいの誤差ではあるが、学食でフライドチキン3個買えると考えるとでかい。


「そうだなぁ……タクシー使った方が安くつきそうだが……ドロ宅ってのも使ってみたい好奇心も……ってちょっとまて」


 あの牛丼屋のところでなんかやってるあいつ、なんか見覚えあるぞ。

 ……っ!思い出した、確か同じクラスの九条くじょうって奴だったはず。あいつこんな所でなにやってんだ?


「にぃさん、どうなさいました?」

「いや、同級生をみつけてな」

「はっ!花火は良いことを思いつきました。


 とても嫌な予感がする。


「その方に手伝ってもらいましょう!」


 思った通りだ。

 俺、九条くじょうくんとは1度も喋ったこと無いんだが……どう接するんだよ。


「ほらにぃさん、あの方がどこか行っちゃう前に声をかけてください」


 ぐいぐいと背中を押され仕方なく横断歩道を渡り九条くんのいる牛丼や付近まで近づいた。


 近くで見た彼は目が見開いており、瞳孔が小さくマジでキマってるんじゃ無いかと錯覚するくらい狂っていた。折角の2枚目も台無しだ。


 –想像しろ、俺は今ねぎだく温玉牛丼おんたまぎゅうどんの大盛り紅ショウガ山盛りを食べている、そうだ香りからイマジネーションし、脳に食したという仮想電気信号かそうでんきしんごうを流せ、腹が次第に膨れる様に脳を騙せ!俺を騙せ!トべ!トべよぉぉぉぉぉぉ!!!ー


 こえ、怖こえぇよ……なんだこいつマジで何してんだよ……排気口はいきこうの匂いを嗅ぎながら意味分からんこと呟いてる。マジで関わりたくねぇ。


 横断歩道の越しで花火を見るが親指を立てて応援するだけだった。


 意を決して声をかける


「や、やぁ九条くじょうくんだっけ」


 九条くんはビクッとしたあとギギギと錆びて回りが悪くなったボルトの様な感じで俺の方向を見る。このまま襲われるんじゃ無いかと勘違いするぐらい目が血走っている。


「……つ、つきみさと……えんじ……」

「す、すまん。何か用事中だったか?」

「めし、どこか、たのむ……」

「……」


 もしかしてこいつ腹減ってんのか?


「な、なぁ。九条くん、俺たちの用事手伝ってくれたら昼飯、一緒にどうだ???」


 するとコンマ数秒で両肩を掴まれる。

 闇の深いその眼は俺の目をしっかり見ており、言葉を間違えると死が待っていると思われるくらいの緊張感きんちょうかんが走った。


「ホントか?それは本当ほんとぅーか?今の俺は冗談が通じないぞ」

「あ、あぁ。大丈夫だ」

「そうか。あいわかった。我、最後の力を振り絞りその依頼を受けようぞ」


 腹減りすぎてキャラが滅茶苦茶だな。



 —


 正直俺はこの世界で餓死するかと思った。

 ここ1週間はとりあえず水と雑草で凌いだが

 思わぬ所に神が、いや主人公がいたものだ。


 そう思いティッシュを手に取り口を拭く。


 目の前には空になった大皿が1つ。すぐに作れる麻婆豆腐を振る舞って頂いた。


「色々と迷惑をかけたな。すまない」


 頭を下げる。

 落ち着いた所で過去を思い返すと僕はとんでもない行動をしていたことに気づかされる。

 人間本当に切羽詰まった時、こういう行動を取るのだと勉強になった。


「いやいや、良い食いっぷりだったな」

「本当にうまかったからな」

「ふふっ、それはよかったです」

「あぁ、色々と世話になった」

「それにしてもなんでそんな腹減ってたの?結構キマってて正直ビビったぜ」


 転生してきてお金がありませんでした。部屋の物を売ろうにも部屋の備品を外に出したら元の位置に戻るなんて話を信じるわけが無い。


「正直に話すと、僕は一人暮らしなんだが、後先考えず家賃と光熱費、ネット料金に生活費全ベットして金が無かったんだ……」


 一人暮らし初心者を装った方が良いだろう。


「親から追加の仕送りとか無かったのか?」

「あぁ、頑張って、それだけだった」

「な、なかなかサバサバした親だな」

「あぁ、だから飛び込みでアルバイトを探して気の良い大将の所にお邪魔したのだが給料の前借りが2週間後って言われたな……」


 マジで雇ってくれるといった所は運が良かったが給与の部分は話が別で信用ない人間がいきなり給料前借りしてくださいと言ってはいそうですかと言う奴はきが気が狂った優しさ狂の奴だけだ。……言うだけ言ったがな。


「そうなんだな……あと1週間もあるじゃねぇか、九条君はどうするんだ?」

「まぁ今日はうまいご飯を頂いたししばらくは耐えられると思う。公園の水と図書館で勉強して見つけた山菜でどうにかするさ」


 そう覚悟を決めていたところ妹さんが不思議そうな顔で口を開いた。


「というか……先ほど仰っていたアルバイト先が何かしらの飲食店の印象を受けたのですが賄いは無いのでしょうか?」


 その言葉に僕は脳内に渾身の拳を受けたかのような衝撃を受けた。


 ま、賄いだと!!!?なんだその甘美な響きのワードは!あぁ意味は知っているさ!アルバイト先で飯が出されるんだよな!完全に抜けていたよ!なんせ働いた事が無かったからな!今度のバイトの時聞いてみよう。


「……いや、腹が減りすぎて賄いの存在すら忘れていたよ。今度聞いてみる」


 さて……そろそろ他人の家にずっといるのもあれだしな。

 いつ幼馴染みが来て変な気まずい空気になるか分からない時期だし、それに巻き込まれたくもない。


「さて、ごちそうになったな。そろそろおいとまするとするか」

「まぁまて、どうせなら夕食まで一緒にどうだ?」

「……いいや、すまない。気を使わせてしまってるな。長居しすぎたようだな」

「そんな気を使わなくても」


 寂しげな表情を浮かべる彼女。ゲームでやっていた頃設定はあったもののグラフィックや会話すら無かったがこんなに美少女だったんだな。


「いや、すまないな妹さん。実は僕と彼は同じクラスでも話したことも無いんだ。そんな彼にこれ以上を気をつかわせては……」

「そうじゃねぇよ。九条くん……もしかして本州の人間か?」

「あぁ、そうだけど……」


「沖縄は助け合いの精神だ。だから俺は同じクラスであるお前を助けた。君もそうだ、余裕がある時にどこかの誰かを助ける。それを約束してくれたら俺らはそれで十分だ」


 ……相変わらず、お人好しだねぇ。


「そうか。君がそう言うなら甘えさせてもらおうかな」

「あぁ、夕方あたりに佐藤さんが来るから米も半分持って帰れよ」

「佐藤さん?」


 あー、なんか居たなそんなキャラ。生徒会の太っちょなモブ女子。ストーリーにちらっと出てきた位だけど。意外と主人公と絡みあるんだな。


「そうそう、入学して数日しか経ってないのに生徒会からスカウトされた優等生なんだぜ。今日米10キロもらう事になってんだ」


 すげぇよこの陽キャ。

 こんな入学してまだ半月経ってないのにもうそんな信頼されてちゃっかり家まで教えてるの?

 ゲームでは操作していたから主要人物との交流くらいは知っていたけれど、本物はコミュ力モンスター過ぎるだろ。


「えっ、にぃさん?花火はその話を始めて聞きましたけど?」

「あっやべっ、伝え忘れたな。すまん」

「もぅ、こう言うのは頂いたお礼を出さなきゃいけないんですからね。ちょっと差し出せる物があるか調べてきます」


 ちょっと怒った口調で台所へ向かってしまった妹さんもとい花火ちゃん。


「なかなかできた妹じゃないか?」

「確かにな……」


 少し間が空いて真顔になった月見里。なんだかんだ言って主人公。もしかして俺の異常性に気づいたかと緊張感が走る。


「やらんからな」


 ……


「はぁ」

「言っておくが決して俺はシスコンではないからな。妹は中3で受験が控えているときに男なんぞとイチャつくと言う事は志望の高校を犠牲にして今を享受してしまっていると言う事であって……」

「っぶははっ十分シスコンだろう」


 余りにも言っていることがおかしくてつい笑ってしまった。

 お前そんなキャラだったか??


「とにかく、花火に手を出すと考えないことだな」

「あぁ大丈夫大丈夫」

「よし、まぁ夕方まで時間があるしな。ゲームなんてどうだ?」

「いいねぇ。シュマブラある?」

「大乱闘いけるくち?俺もそこそこ時間かけてるからな。ボコボコにしてやんよ」

「その自信へし折ってやるわ」



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