変わる世界
柚美。
プロローグ
第1話
助けてなんて、そんなつまらない事を言うつもりはないし、悲劇のヒロインだなんて思ってない。
愛人にばかり夢中で、家庭を
ほんと、嫌になる。
誰も信用しない。男なんて特に。好きだ、愛してると囁いていても、手に入れた途端、いとも簡単にそれを捨ててしまう。そしてまたそれを繰り返す。
ほんとに馬鹿げてる。
私は、絶対あの人みたいにはならない。男に縋り付いて、惨めに泣くなんてごめんだ。
みんながみんなそうだとは言わないけど、少なくとも私の目の前のカップルの愛は、本物ではないだろう。
「それ、浮気じゃん」
「うるせぇな、お前と違って、あの子のが可愛いんだから仕方ねぇじゃん。てかさ、お前だってやってんだろ」
本屋へ入ろうとした時、隣の建物の前で、派手に喧嘩を始めるカップルを、冷えた目で一瞥する。
いい加減にして欲しい。他所でやってくれないかなと、眉を寄せる。
ほら、所詮男女の色恋なんてこんなのばっかり。愛だの恋だのほんと、冗談じゃない。
いまだに喧嘩が収まらないカップルを無視して、本屋へ入る。
文庫コーナーという、いつもの場所に足を向ける。
しかし、どうして災難はこうも続くのか。
私のお気に入りの場所で、誰かが座り込んでいる。ヤンキー座りというやつだ。
艶のある柔らかそうな黒髪は、前髪だけ赤いメッシュが入っていて、耳にはいくつかピアスがついていて、手が加えてある学ランを着崩していて、見るからに柄の悪そうな不良。そんな彼は、難しい顔をして本を睨みつけている。
はっきり言って、凄く邪魔。彼の座り込んだ部分に、私の今日の目的の本がある。
別の本屋を探すか、と諦めて振り返り掛けた時、ふと彼がこちらを向く。
「なぁ、あんたさ、おすすめの本てある?」
突然気だるげに話しかけられ、絶句してしまう。
「おい、聞いてるか? あんただよ、あんた、同じ学校だろ?」
驚いて固まっている私に近づいてきた彼は、私の目の前でヒラヒラと手を振っている。
「あ、えっと、ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって。あの、例えば、何系がいいとか、ありますか?」
立ち上がるとかなり背が高いのが分かる。細身に見える体は、意外と鍛えられている。
好みを聞いて、手短な本をおすすめする。
「あんた本詳しいんだな。ありがとな」
「いえ、じゃぁ……」
「待って」
購入するはずの本を手に、レジへ向かおうとした私の手が、優しく握られる。
引き止める為に握られた手を、無意識に振り払っていた。
「っ!?」
「ぁ……ご、ごめんなさいっ……」
男だと思うと、触られる事が耐えられなくて、持っている本を素早く棚に戻し、走って本屋を出た。
何かされたわけじゃないのに、失礼だって分かってるけど、やっぱり男は駄目だ。
いつの間にか、父親への、男への嫌悪が大きくなっていた。
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