第6話 デートに誘うのは男の役目?



「ふむ……」


 僕は腕を組んで考える。


 ――先日の告白事件。


 あれは僕にとって、いささか考えさせられる出来事であった。

 

 彼女、姫上さつきは、誰もが見惚れる美少女だ。

 現役モデルで、顔もスタイルも抜群にいい。

 その上性格も、少しきついが、しっかり者の努力家だ。

 であれば当然、狙う男は多い。

 先日の某バスケ部センパイの如く、いつ何時彼女を狙う不届き者が現れないとも限らない。


 すなわち、今現在相思相愛であるからと言って、そこに甘んじてはならないのだ。


 よって。



「――デートをしよう」


「寝言は寝て言いなさい」



 今は放課後。いつものカフェでいつも通りに嫁を待ち構え、やがて現れた嫁を無理やり同じテーブルに座らせた。

 嫁は嫌そうな顔をするが、そこはいつも通り無視した。


「ふむ。何か問題があったかな?」

「あるでしょ。主にあんたの頭」


 スマホを弄りながら、嫁は一切こっちを見ずにそう告げる。

 一体このツンデレ期はいつになったら終わるのか。天気予報の速報を待ちたいところだ。


「キミは以前言っていたな? これといった趣味がないから、休日は時間を潰すのに苦労する、と」

「……それが?」

「ならば、休日を共に過ごすのは合理的ではないか?」

「……はぁ」


 ため息をつかれる。

 もはや僕の前で彼女が付いたため息は何度目か、三桁はゆうに超えているだろう。


「あのね、私だって、お休みの日くらい自由に過ごしたいのよ」

「うむ。だからこそ、自由意志の下、僕とのデートを選べばいい」

「ありえない」


 ばっさり。

 なぜだろう。今までは特に何とも思わなかったのに、先日の告白事件以来、彼女の言葉の切れ味にうすら寒いものを感じる。


「……ではキミは、休みの日に何かしたいことがあるのか?」

「特にないけど。なに? モデルが部屋でごろごろしてちゃダメ?」

「いや、別にダメではないのだが……」


 部屋でゴロゴロする姫上さつき。

 まるで想像がつかないが、まあそういうこともあるだろう。

 しかしそれなら、僕とデートした方が……と言いかけ、なんだか不毛な流れに思えて言葉を失う。


 さて、どうしたものか。

 というか、デートとは、誘うだけでこんなにも大変なものなのか?

 世の男性たちは、みなこんな試練を乗り越えているのだろうか。


 そう考えると、世の”彼女持ち”の男達に畏敬の念を覚える。


「……はぁ」


 僕が黙りこくっていると、前から、何やら諦めたようなため息。


「……で、どこに連れていく気?」


 お約束のジト目で、仕方ない、という風に見る彼女。

 それはつまり……


「休みに付き合ってもらえる、と?」

「行かないとしつこいでしょあんた。言っとくけど、変なとこ連れてくようなら断固拒否するから」


 そう言われ、慌てて脳内で検索をかける。

 デートコース。これは古来より、女性が男性を試す試練の場とされる。

 ここで彼女の喜ぶ場所を選べなければ、途端にダメ男のレッテルを張られ、恋愛対象から外されるのだとか。

 

 ……今更ながら、男の恋愛はハードモードすぎやしないだろうか。


「……む、むむむ……」

「……いや、そんな悩む? どっか行きたいとこがあったんじゃないの?」

「いや単純にキミとデートがしたかっただけで、具体的な場所などは一切頭になかった」

「……なんかもう、どこから呆れればいいのか分からないんだけど」


 はぁ、と再びため息を吐かれる。

 いや、ここでため息は、男として大分胸が痛いのだが。


 しかし、そこでふと閃いた。


「……逆に」

「なによ」

「キミが普段よく行く場所に連れて行ってもらう、というのはどうだろうか」

「……はぁ?」


 何言ってんの? と睨まれる。

 いやしかし、我ながら悪くない考えだ。

 彼女とデートができて、彼女のことも知れる。

 まさにこれ以上ないデートプランなのでは?


「普通に嫌だけど」

「……そう言わず」


 案の定バッサリな彼女に、僕は手を合わせて頼む。

 なんだか最近、彼女から切り捨てられるパターンが分かってきた。

 こういう時は、素直に頼み込むしかない。


「なんで私のプライベートをあんたに教えないといけないの? このカフェを知られてるだけでも迷惑なのに」

「なぜそうも次々と心を抉る言葉が出てくるかな、キミは……」

 

 僕でなければとっくに死んでるぞ、この人でなし。

 と、彼女の綺麗な顔を恨みがましく見つめる。


 すると、さすがにバツが悪くなったのか。


「……そんな大した場所には行ってないわよ」

「構わないよ。キミのことが知れるなら、なんだっていいさ」

「……ほんと、よくそういうこと真顔で言えるわよね」


 そう言って彼女は、やがて妥協したように肩を落とした。


「……ここみたいに、待ち伏せしたりするのはやめなさいよ」


 その言葉に、僕は渋々頷くのだった。














「――妹よ。デートという行為において、成功とはなんだろうか」


「……いきなりどうしたのお兄ちゃん? 病気?」


 その夜、妹の部屋にお邪魔して、僕は人生相談をしていた。


「病気ではない。同じ女性の目線からアドバイスをもらいたいと思ってな。デートをする上で、好印象の男性とはどのようなものだろう?」


 そう聞くと妹は、んーとその細い指を唇にあて。


「そうだなぁ……お金をたくさん払ってくれる人、とか?」

「……」


 その身も蓋もない残酷な言葉に、僕は言葉なく呻いた。


「いや、さすがに冗談だけど」

「本気かと思ったぞ」


 妹が気づかないうちにそんなにも擦れていたなど、信じたくない。


「うーん、そうだなぁ……人によるとは、思うけど。さつきさんの場合……」

「……」


 当然のように相手がバレているが、今更である。


「下手に機嫌をとろうとするよりは、自分のしたいようにすればいいと思うよ」

「……それでは、今までと変わらないのではないか?」

「それでいいんじゃない? 一応、今までは上手くやれてるんだし」


 その言葉に、今までの彼女とのやり取りを思い出す。

 ……はて、上手くやれたことなどあっただろうか?


「いや、しかしだな……」

「大丈夫だって」


 そう言うと、妹はベッドに寝転がってスマホを弄りだしてしまう。

 いや、もう少し真面目に。そう言おうとした時。


「ほんとに嫌だったら、さつきさん絶対こないと思うし」


 そう言って、にまっと笑う妹。

 む、確かに、言われてみれば。

 となるとやはり、僕と妻は相思相愛であるということか。


 ふふん、と即座に気分が持ち直した。


 ならばこうしてはいられない。


「よし、では完璧なデートプランを提案してくれ!」

「それぐらい自分で考えれ。てか、女の子の部屋にいつまでも居座るな」


 ばたん。部屋を追い出されてしまった。


「……むぅ」


 仕方ない、一人で頑張るしかないか。


 妹のお墨付き(?)をもらった僕は、とりあえずデートに着ていくコーディネイトに悩むのだった。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【あとがき】


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


よろしければフォロー、レビュー、応援コメントを頂けますと嬉しいです! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る