クールビューティーな学園のマドンナは、多分ツンデレに違いない
美星美咲
第1話 僕の嫁(予定)はツンデレ美少女
「……ねえ、いい加減懲りない?」
「君こそ、いい加減諦めたらどうだ?」
席を挟んで睨み合う、二人の男女。
僕、
美しいセミロングの黒髪に、キリッとした二重の瞳。
人形のような小顔に、長身かつ長い手足。
現役モデルであり、かつ学園No.1美少女。
そして、僕の未来のお嫁さんでもある。
「誰が嫁よ」
……しかし、彼女はとっても照れ屋さんで、中々僕の求婚に応じてくれない。
なので僕は渋々、彼女の行きつけのカフェに週7で通うハメになっているのであった。
「……はぁ。ほんと。私がここに来る度に待ち構えてるのやめてくれない?」
「それはこちらのセリフだ。キミがいつ来るかわからないから、毎日カフェに通う方の身にもなってほしい」
「……ねぇ、なんで私が悪いみたいな言い方なの? おかしいわよね? 普通にストーカーよね?」
「心外だな。君が大人しく僕の求婚に答えて、二人で幸せな家庭を築けばいいだけの話さ」
「だからそれが嫌だっつってんでしょうが」
頭を抱える彼女。
……やれやれ、本当に困った子猫ちゃんだ。
「まあ気持ちは分かるよ」
「え、ほんと?」
「僕みたいな絶世の美男子に求愛されたんだ。信じられない気持ちはよく分かる」
「やっぱ微塵も分かってないわこいつ」
ふぅ、やれやれ。美しいというのも罪なものだ。
僕は鞄からマイ手鏡を取り出す。
今日も美しい自分の顔に見惚れ、ほんのわずかに乱れた前髪をさっと直す。
「いくら僕が女子も嫉妬するほど美しいからと言って、気負う必要はないよ。僕はキミを見初めた。どうかその愛を信じて欲しい」
「信じたくないし、自分で言うな」
僕、水野蒼汰は、自分で言うのもなんだが美男子だ。
髪は絹のような黒髪、大きな瞳に長い睫。女子よりも小さな小顔。
スキンケア、ヘアケア、ボディメイクも欠かしていない。
こと”美”に関しては、女子も顔負けな熱量を持つ自覚がある。
そして、そんな美しい僕に、幸運にも見初められたというのに。
「悪いけど、あんた全然タイプじゃないから」
……この少女は、そんな心にもないことを口にするのだ。
まったく、今時ツンデレなど流行らないというのに。
「キミはもう少し最近の流行を勉強した方がいい。ツンデレが可愛い時代はエヴァン○リオンと共に終わりを告げたんだよ」
「何言ってんのかさっぱり分からないけど、本心だから」
ここまで言っても分からないとは。
哀れな、と首を振る。
するとなぜか額に青筋を立てる姫上さん。
「よし、分かった」
「嫌な予感しかしない」
「とりあえずキスをしよう」
「警察呼ぶわ」
すっとスマホを取り出す姫上さん。
その手を、優しく、羽を掴むようにそっと握る。
「待ってくれ」
「ひぃ!」
掴んだ瞬間、ばっと勢いよく離れていく。
ふむ? 妙な反応だな。それほど興奮させてしまったか。
いきなり肌に触れるのは刺激が強すぎたようだ。反省しよう。
「すまない。そんなに興奮するとは思わなかった。性行為は順序を経てしたいから、少し落ち着いてくれ」
「もうぶっ殺していい?」
鞄からカッターを持ち出す姫上さん。
何やら据わった目をしているが、照れ隠しにしても限度がある。
「待て待て。君は未来の旦那をその手で殺すというのか?」
「むしろまだ見ぬ未来の旦那様のためにも、あんたは今殺しておいた方がいいと思う」
まだ見ぬ? よく分からない。
君の運命の相手は目の前にいるじゃないか。
しかし彼女の目つきはいささか危ない。
「分かった。とりあえず落ち着こう。今日は一旦引き上げることにするよ」
ここはこちらが大人になるしかないようだ。
「明日また来るから、それまでに婚姻届を書き上げておいてくれ」
「お願いだから二度と来るな」
やれやれ、可愛い奴だ。
「――ただいま」
こうして、今日も婚約者とのコミュニケーションを終え帰宅する。
僕の住む家は、何の変哲もない普通のマンション。
なのに住むのが僕となれば、たちまちイギリス王室のように見えてくるのだから驚きだ。
「あ、おかえり! お兄ちゃん!」
とことこと駆け寄ってくるのは、今年中学三年生になる我が妹。
僕に似て、見目麗しい美少女だ。
「ただいま、妹よ。お兄ちゃんがいなくて寂しくなかったか?」
「ううん、むしろ空気が綺麗だったよ!」
いやどういうこと?
あれか? 僕があまりに美しすぎて呼吸がしづらかったということか。
しまったな。知らず妹に負担をかけていたようだ。
「すまなかったな。今後はもう少しオーラを抑えるとしよう」
「うん! でもその口を閉じてくれた方がもっと嬉しいかも!」
ふむ。照れ隠しなのは分かるが、僕とて可愛い妹と話がしたいのだ。
そうつれないことを言わないで欲しい。
「お兄ちゃん、今日もさつきさんのところに行ってきたの?」
「うん? ああ当然だ。いずれ夫婦になる身だが、あまり放っておいては可哀想だろう?」
「……ごめんね、さつきさん。兄を止められない私を許して」
何やら悲壮に暮れた表情で十字架をきる妹。
はて、どういう意味だろう。
……いや、まさか。
「妹よ。もしや、お兄ちゃんが彼女にとられるのではと心配しているのか?」
「ううん全然。むしろできるだけ早急に引き取って欲しい」
「なるほど、お前の気持ちは分かるが、それはいらない心配だ。この水野蒼汰。嫁と妹を天秤にかけるほど狭量ではない」
「お兄ちゃんって耳ついてる?」
心底不思議そうな妹。
心外だ。僕が可愛い妹の言葉を聞き逃すはずがない。
そして素直になれない妹の本音に、気づかないはずもないのだ。
「兄は全て分かっている」
「ううん、多分何一つ分かってないと思う」
「妹よ、お前が次に言う言葉を当ててやろう」
「絶対当たらないと思うけど、どうぞ」
バカめ。何年お前のお兄ちゃんをやってると思ってる。
「”今日はお兄ちゃんと一緒に寝たい”だな?」
「すごいお兄ちゃん! 生まれてから一度も思ったことない!」
素直じゃない妹だ。
ふっとニヒルに微笑む。
すると妹は、なぜか憐れむような目で僕を見てきた。
「ねえお兄ちゃん」
「なんだ妹」
「……もうさつきさんのとこ行くの、やめてあげたら?」
……はて。
どういうことだろう?
「婚約者に会いに行くのは、当たり前のことでは?」
「いやだからそれが……えっと、なんていうか」
妙に歯切れの悪い妹。一体どうしたというのだろう。
「もうこの際言っちゃうけど……さつきさん、多分脈なしだと思うよ?」
その言葉の意味を、理解するまで少しの時間を要した。
脈……なし?
どういうことだ? 誰が誰に対して脈がないというのか。
「いやだから、さつきさん、別にお兄ちゃんのこと好きじゃないんだって」
そんなおかしなことを言う妹。
全く、何を言い出すかと思えば。
お兄ちゃんに惚れない女などいるはずがないだろう。
「いやむしろ大半の人は……ううん、なんでもない」
「では妹よ。お前はもし僕が兄ではなく、ただの男女として告白したら断るというのか?」
ふ、と鼻で笑ってやる。
どうだ、ぐうの音も出まい。
僕が兄であるせいで、お前が必死に想いを抑えていることなどお見通しだ。
「うん、多分秒で断ると思う」
……おや?
どうしたことだろう。予想とは違う言葉が返ってきた。
「あのね、確かにね? お兄ちゃん見た目はいいと思うよ? 見た目だけは」
「そうだろうそうだろう。だが見た目だけではないぞ」
「うんまあ、成績も運動もそこそこだし、普通にしれば優良物件だと思う」
「うむ。最優良物件と言うべきだろうな」
機嫌をよくする僕。
しかし妹は眉尻を下げる。
「でもね? それを帳消しにするくらい……中身が、残念なんだよ」
とても哀しそうな声で、そう告げた。
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【あとがき】
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
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