虚無の果て〜城戸美都の場合〜

柚美

プロローグ

第1話

誰にだって秘密がある。



現に自分にも秘密はあるわけで。



誰の奴隷にもならず、普通に過ごしていた。それから数日経ったある日の事だ。



明るい髪色、中肉中背の人懐っこそうな整った顔をした男子生徒と、同じパンを掴んでいた。



見た事がある人だと思った。



確か、あの有名人である〝鳳月奏夢ほうづきかなめ〟と奴隷の女の子を取り合っていた先輩だった。



確か、入谷律樹いりやりつきだ。



彼女を連れて部屋を出たこの人の雰囲気が、何故か頭に残っていた。



「悪い」



「いえ、どうぞ」



「え? いや、そっちが買いなよ」



パンを差し出され、彼の顔とパンを交互に見る。



「どうした? いらねぇの?」



「入谷先輩にお譲りしますよ」



そう言ってよそ行きの笑顔を浮かべて、違うパンを手に取ってレジへ向かう。



別にそのパンが絶対欲しかったわけじゃないし、特に意味はなかった。



「なぁ、飯一人で食うの?」



背中から声をかけられ、振り返る。



そして、何故か二人で中庭のベンチに座ってお昼を食べる事になった。



特に何かを話すわけでもなく、ただ黙々とパンを食べる。



ちょっと気まずいような、不思議な空間で、口を開く。



「……あの……何で俺と?」



「ん? 別に。なんとなく?」



それだけ言ってまたパンに戻る。



なんとも言えない空気。なのに、何故か嫌な感じはなくて。



居心地は、悪くない。



それ以来、たまにお昼を一緒に食べるようになった。



そんなある日。



「なぁ、お前俺の専属にならねぇ?」



唐突の提案に、ジュースを吹きそうになった。



「もう期限ギリギリだし、どうせお前もフリーだろ? 変な奴の専属になるよりいいじゃん」



どんな理屈なんだと思いながらも、確かに一理あるなと納得する部分もある。



ただ、少し素朴な疑問が浮かぶ。



「女の子じゃなくて、いいんですか?」



そう言うと、少し眉を顰めた後、苦笑しながらこちらを見る。



その傷ついたようななんとも言えない顔が、印象的だった。



「お前といるの楽しいし、楽だからいいんだよ。で? お前はどうなん?」



「まぁ、別に断る理由はないんで」



入谷先輩は「そっか」と言った。



こうして、彼の専属になった。

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