虚無の果て 〜睦月紅羽の場合〜

柚美。

プロローグ

第1話

奴隷制度。



そんなありえない話、最初は耳を疑った。



何で私がって思った。



今まで、出来るだけ目立たず地味に生きてきた。



目立つのは、嫌いだ。



でも、この制度は私を目立たせる。



「じゃ、俺この子でいいや。つか、女の子この子しかいないじゃんか」



この子でいいやって、何か適当だけど、顔が無駄に楽しそうに私を見下ろす。



綺麗で整った顔、目元のホクロが凄く色っぽくて、背もスラッとしていて、まるでモデルみたいだ。



ただ、この人のこの笑い方は、好きじゃない。



何処か、違和感がある。



笑いながら人を傷つけられる人。怖い。



「一年生だっけ? ていうか、いいねぇ、その怯えた顔。好みだわ」



顎を掴まれ、上を向かされる。



笑っているのに目が笑ってなくて、怪しく揺れる瞳から、視線を逸らす事が出来ない。



やっぱり、怖い。こういう何を考えてるか分からない人は、苦手だ。



「とりあえず、スマホ出して?」



突然言われ、私は困ってしまった。



何せ私は、スマホを持っていないから。



「スマホは……持っていません」



私が言った事に、必ずみんな同じ顔をする。



彼も同じ。驚いたような、信じられないと言ったような顔。



当たり前だ。この時代にスマホを持っていない人間の方が少ない。特に私のような高校生が。



「名前、なんだっけ?」



睦月むつき紅羽くれはです……」



「紅羽……へぇー、いいじゃん、可愛い。何か似合ってんね」



変わってるねとか、似合わないとかよく言われるのに、初めて言われた言葉に照れてしまう。



顔が、熱くて、恥ずかしさに目を逸らす。



「とりあえずは、スマホからだな。えっと、確か……お、あった。ん〜……っと……はい、これ」



そう言って渡されたのは、スマホだった。



少し操作して、こちらに差し出されたスマホを見て、不思議に思った私は、彼の顔を見上げる。



「これ持ってな。俺はもう一台あるから」



「え、あの……」



「連絡つかないと困るでしょ。ご主人様の命令は絶対だよ、奴隷ちゃん」



笑った顔が綺麗で、見惚れてしまう。



でもやっぱり、目は曇っている。



あまり、深入りしないようにしなきゃ駄目な気がする。



きっと、この人が抱えているものは、多分、多分だけど、凄く重い気がする。



「俺の番号しか入ってないから、他の番号入れちゃ駄目だよ? 使い方は、さすがに分かるよね?」



「あ、はい……」



この人が、私の主。



これから私は、一年この人と一緒に過ごすのか。



怖くて、不安で、足が竦む。



おばあちゃん、お父さん、お母さん、これから私は、どうなってしまうんでしょうか。

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