虚無の果て〜深神唯栞の場合〜

柚美。

プロローグ

第1話

奴隷制度で選ばれた。



馬鹿らしくて笑える。



一体何を考えて、こんなイカれた制度なんて作ったんだろう。



本当に信じられない。ありえなさすぎる。



主と奴隷が向き合う中、主の中でも一番大きくて威圧感のある男。



私は彼を知っている。



硬派で、堅物で、生真面目で、無愛想で。見た目が怖い。



でも、私は彼に優しくしてもらった事がある。



私は彼――林田誠が、好き。



なのに、主と奴隷って。何の呪いなんだ。



「奏夢はあの子に決まりか〜。誠はどうすんの?」



ダルそうにそう問うた、うちの学年でもダントツの女癖の悪さを誇り、痛いのがお好みのドS男、東部累。



「誰でも、構わない」



「じゃ、あの子は? 小さくて大人しそう。あ〜、でも、体力はなさそうか。お前んとこの部員全員相手は無理か」



私の二つ隣にいる女の子に近づいて、嫌な笑顔で笑う。



嫌悪。目を逸らすと、林田誠と目が合った。



駄目だ。心臓がうるさい。顔に熱が集まる。



「でもこういう子を回すのがいいとか?」



指名された子は、青くなって震え、涙を流す。



体が勝手に動いていた。



「あのっ、私じゃ、駄目ですか?」



東部累と女の子の間に割って入った私を、東部累が驚いたように私を見た。



「彼女より体力あるし、誰でもいいなら、私でもいいですよね?」



東部累から視線を逸らし、林田誠を見る。彼も少し驚いたように私を見ていたけれど、すぐに無愛想な顔に戻り、私に近づいてくる。



静まれ、私の心臓。



至近距離で私を見下ろし、林田誠は私の顎に指を当てて顔を上げさせる。



厳ついわりに、整った顔が私を見つめる。心臓が潰れそう。



「いいだろう。説明する、ついて来い」



スっと手が離れ、興味無さそうに部屋を出る。



それについて行こうとした私の背中に、声がかかる。



「部員多いし性欲バカばっかだから大変だけど、壊れないように頑張ってね〜」



自分から地獄へ向かうってことくらい、ちゃんと分かってる。



奴隷制度とは関係なく、運動部は稀にマネージャーが、部員の性欲処理をするというのを聞いた事がある。



多分そういう事なんだろう。



「お前、経験は?」



突然話しかけられ、ビクリとする。



「初めて、ではない、です……まぁ、ぼちぼちと……」



こちらを向くことすらなく、短く「そうか」と呟いた。



何の確認なのか。



部室へ向かう足取りは正直重い。これから何が行われるのか、私の想像通りなのだろうか。



少し怖いけれど、さっきの子が酷い事されるくらいなら、私の方がまだマシだろう。



さっきの子は予想だけれど、多分処女だろうし、か弱そうだし。



あんな子が酷くされるなんて、許される事じゃないし。一人でも守れるなら、私の体が犠牲になるくらいどうという事はない。



大丈夫。きっと、耐えられる。



柔道部。



初めて来る場所。柔道の事なんて分からないし、こっちの校舎に来る事はほとんどない。



「まだ部員が集まるには早いから、先に中で説明する。その前に確認するが」



「何ですか?」



「俺の専属という事になるが、お前はそれでいいか?」



今更何を言ってるのか、この人は。



私が自分から名乗り出たのに、駄目なんて言うわけないのに。



私は頷いた。



こういう律儀なとこも、好きだなぁ。



でも私は、好きな人の前で違う人に抱かれるのだろうか。



「男臭くて、あまり綺麗とは言わないが、少し我慢してくれ」



部室のロッカーに囲まれ、真ん中にベンチがある。そのベンチを軽く払って、私に勧める。



ほんと、ズルい。



諦めようとしてたのに、諦められなくなる。



ほんと、めちゃくちゃいい男。



「とりあえず、部員の性欲処理をメインにしてもらう事になる。部活の時以外はなるべくお前に手は出さないように言っておく。まぁ、部活以外でするしないの判断はお前に任せる」



やっぱり性欲処理。それ以外は私に選択権をくれるらしい。ただ、性欲処理に関しては、拒否権はないらしい。どんな時でも、性欲処理優先。



「手や口だけで満足する部員もいるが、たまに最後までするのが当たり前になる奴もいるかもしれないが、何かあったら俺に言え。出来る事は対処する」



私は、当たり前みたいに言うこの男をただ見つめる。



おかしな話をされてるのに、イカれた奴隷制度でマヒしている私の頭。



そして、こんな状況なのに、私はチャンスだと思ってしまった。

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