第14話

あー、もう面倒くさい。



「付き合ってないから」


「でももうすぐって感じじゃないの。お母さん、薫くんなら本当に大歓迎よ?育ちも品もいいし、お家柄も十分じゃない。」



お家柄って……。



うちはそんな大層な家柄でもないけど?



母親の話は聞いているだけ無駄なので、どうでも良くなり、ニコニコと話す母親を無視してエントランスを通ると、愛想の良さなら誰よりもあるコンシェルジュがわたしと母親に向かって笑顔で会釈する。



エレベーターのボタンを押して待っていると、母親が不思議そうにわたしを見る。



「そういえば光。それどうしたのよ?」


「え?」


「浴衣なんて、持ってないでしょ?」



しまった。


そういえば蘭さんから借りてたものだった。



誰かに借りた、なんて言うと母親が怒りそうなので咄嗟に嘘をつくしかなく。



「…この前買ってもらったの、パパに」


エレベーターに乗り込みながらテキトーに言うと「そうなの?」と納得した様子で。



「クリーニング、取りに来てもらうわね」


「うん、お願い。戻ってきたらわたしの部屋に置いといて」



頷いてると、「やっぱり育ちって大事よね」と母親が呟くように言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る