楓の行方は。-2-

「カエデって呼び方…蛙の手、から来てるらしいわよ?」


「ええ…」



愛花は苦笑しつつ、首を横に振って答える。



「それは、流石に分かりません」


「ね。私も最初知った時、まじか、って思った」



清花は並木に目を向けつつ、言葉を零した。



「でも…その意外な感じが、なんだかその時の自分に、重なったのよねぇ」



と、強めの、風。

落ち葉が少し舞い上がり、二人の間を通り過ぎた。


次いで、不意に訪れようとする沈黙。

愛花は、視線が清花へと向かないようにしつつ、その沈黙に少しだけ待ったをかける。



「そういう、先輩の飾らない感じ、素敵だなと思います」



清花は、視線の合わない愛花を見つつ、微笑みながら答える。



「…ありがと」



会話は、そこで少し途切れることとなった。


代わりに響くのは、風で擦れる木々のざわめき。

そして、小気味よく刻まれる、別の音。


小さめのキャリーバック。そのローラーが奏でる音だった。

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