【新たな世界 3/3 ─新しい友達─】
幹部の印をその身に刻み込み、しばらく経った頃、キャットは、ある女に出会う……
いつも通りキャットは、幹部の仕事を、テキトーに、ちゃちゃっと片付けた。 そして“遊びに行こう”と、出口へと向かう。その途中……
「……?」
キャットは、不審な動きをする女を発見した。
その女を、眺めるキャット。
その女は何やら必死そうに、床のあちこちを見渡している。 その表情は、物凄く必死そうだった……
「アンタ、何してるのよ?」
キャットは、その女に問い掛けた。
すると女は、真剣そうに床を眺めたまま、言った。
「ないの……ないのよ! ……私の、“つけまつげ”が!」
そして女は、バッと顔を上げる。
「…………」
本人が言っている通り、片目だけ、つけまつげがない。 キャットは、表情を歪める……
「ヤダ~、気の毒ぅ……アンタ、片目だけ小さくなっちゃって~……ブサイクゥ……」
キャットは哀れむように、その女を見る。
そしてその女は、ハッとする。
「ヤダ~! 誰かと思ったら、幹部のキャット様だわぁ~! ツケマ片方なくした、私のコノ気持ち、分かってくれますぅ~?」
「分かるわよ~……今のアンタ、最高にブサイクだわ! 見てられな~い……探すの、手伝ってあげちゃ~う!」
「キャ~?! 幹部様が、こんなことを手伝ってくれるなんて~! ……私、感動しちゃう~!」
雰囲気といい、メイクといい、服装といい……この二人は、似ていた。
二人で必死に、つけまつげを探す。
「アンタ、名前は?」
「私はフォレスト。下っ端で~す!」
「へー、アンタ私と、同じ匂いがするわ」
そして二人でしばらく、つけまつげを捜索し……
「あった!」
キャットが、発見した。
「キャー! さすが幹部様だわ~!」
フォレストは、嬉しそうに笑ってる。
そんなフォレストを見て、キャットも嬉しくなった。
フォレストは元通り、両目つけまつげになり、一段落。
一段落したところで、キャットは再び、出掛ける為に、出口へと向かう。
「じゃあ、またね、フォレスト」
だがそう言うと、フォレストは言った……
「キャット様に出逢えて、なんだか私、嬉しかったわ。けどもしかしたら、もう、会えないかもしれない―─……」
そう言って、フォレストは少し寂しそうに、微笑んでいたのだ。
──そして、フォレストと会った日から、一週間程が経った頃……
「組織のメンバーの何人かが、逃げたらしいぞ」
ウルフとアクアが、そんな話をしていた。
「俺も今朝、その話しを聞いた。たしか逃げたのは……――」
アクアは、その何人かの名前を上げていく。
キャットは別に、興味もなさそうに、外を眺めていた。だが……──
「それと、“フォレスト”」
アクアが言った名前の中には、“フォレスト”の名前もあった。
キャットはようやく興味を持ったのか、話しを聞き始めた。
「まぁ、逃げた奴らは、すぐに捕まったそうですね」
「捕まって、どうなったの?」
するとウルフが、窓の外を眺めながら、言った。
「リュウが……─―始末したさ」
そのウルフの表情は、ほんのりと、寂しそうだった。
「……──」
キャットは黙って、“始末”、その言葉の意味を、考えていた。
そして、ほんのりと寂しげだったウルフの表情が、不機嫌なものへと変わった。
「リュウも、終わりだな。父上と同じだ……」
そしてキャットは無表情のまま、その部屋を出た。
「……あの子、どうなっちゃったのかな? ……」
あの子とは、フォレストのことだった。
ほんのりと、そんな疑問を抱いていた。
そしてその日、この場所は、その話しで持ちきりになるのだった。
あるメイドたちの会話が、聞こえてくる……
―「なんて、恐ろしいことでしょう……リュウ様は、冷酷な方になられた……」
―「昔は、お優しい方でしたのに……」
―「時の流れとは、残酷なものです……ここまで人を、変えてしまうなんて……」
そんな会話を聞きながら、キャットはその前を通過した。 リュウがした“始末”の意味が、どんなものなのか、嫌でも分かってくる。
「フォレストとは、気が合いそうだったのにな……」
ほんのりと悲しみを感じながら、キャットの1日が、今日も始まった。
だがその日、キャットに新しい友達が出来ることになる。
あるメイドが、キャットに相談を持ち掛けたのが、きっかけだった。
そのメイドとは、リュウの婚約者の専属メイドだった。
「日に日に、あのお方は、人形のようになられる……あのお方にとってこの組織は、苦痛でしかないのです。 ウルフ様の婚約者だったキャット様になら、あのお方は、心を開くかもしれない……」
メイドは悲しそうに、キャットにそう言ったのだった。
「……分かったわよ。その子に、話しでもかけておくから……」
キャットはリュウの婚約者に、会ったことがなかった。何でもその婚約者は、必要以上に、部屋から出たがらないんだとか……。 だから、会ったことがなかったのだ。
その日キャットはドキドキとしながら、リュウの婚約者の元を訪れる……
部屋をノックすると、少しして、部屋の扉が開いた。
「…………」
“あれだけ恐れられる、リュウの婚約者だなんて……どんな女だろう”、とか、思っていたのだが、そこに立っているのは、小柄な、可愛らしい顔をした女。 だがその女は表情に乏しく、元気がないように見える。
自分とは、真反対の雰囲気だ。
──これが、キャットとドールの出会いだった。
そして次第に、ドールはキャットには心を開くようになる。
キャットは何かと、引きこもりがちなドールを部屋から連れ出した。
その甲斐もあり、ドールはウルフやアクアとも、少しずつ、仲良くなっていった。 だが相変わらずドールは、リュウのことは、いつまで経っても、受け入れようとしないのだった……
ドールとキャットの出会いは、どちらからしても、プラスなことだった。
****
ある日のこと、ウルフはいつも通り、家を抜け出す。 向かった先は、ブラック オーシャンの溜まり場だった。
ウルフは組織から抜け出している時は、本当の自分へと戻る。 ブラック オーシャンの、“栗原 聡”に戻る。
溜まり場につくと、栗原は、ある人物を捜し始めた。
「おっ! こんな所にいたか、聖」
栗原が捜していたのは、聖だ。そして聖と一緒に、高野もいた。
「総長! 何か用スか? ……――あっ! やっぱやめた。総長! ちょうどいいタイミングに来ましたね! 実は……――」
「!? 用があって来たの俺なのに、お前、先に話しちまうのかよ!?」
総長の用を差し置いて、聖は勝手に、話し始めた。
「実は総長に、見てもらいたいモノが!」
「なんだ?」
すると聖は、いきなり遠くへと、走って行った……──
「お~い。聖ぃ~……」
そして走って行ったと思ったら、聖は再び、振り返った。
意味が分からないまま、栗原は聖を眺める。
すると、いきなり……
「お! ……」
聖が走り出した。そして……──
「!!」
聖が、蹴る相手はいないが、跳び蹴りをした。
そして聖は、綺麗に着地。 自信ありげに、聖が振り返る。
「どうスか! 総長!」
栗原は、驚いた表情を作っていた。唖然としたまま、栗原が言う……
「その跳び蹴り、黄色い鳥だ……!」
高「は? 黄色い鳥? ヒヨコですか?」
「言い方を間違えた……。 黄の鳳凰って言いたかった」
聖は満足げに笑う。
「分かりますか?! そうなんスよ! コレ、黄の鳳凰なんです!」
だが、疑問が浮かぶ……
「けどよ? なぜ聖が、丸島の飛び蹴りを……」
「〝芸はッ!! 盗みました!!〞」
正直すぎる聖に、つい、ガクッとなる栗原。
そして更に聖は、無理なことを言ってくる……
「総長! 俺と丸島の飛び蹴り、どっちか凄いか! その身に食らってみて下さいよ!!」
「ヤッヤダ!! 決まってんだろう?!!」
「総長~! 頼みますよぉ~! 丸島の飛び蹴りを食らったことのある、一番身近な人、総長なんですよぉ~!!」
「絶対ヤダ!! 丸島に食らわして、評価してもらえ!!」
すると……
「そうか!! その手があった?! よし! 丸島の所へ行くぞ!!」
「?!」
本気で、行く気の聖……
「聖?! ダメだッ冗談だ!! お願いだから! そんなことはするなッ……!!」
栗原は必死に、走り出そうとした聖を止めたのだった。
そんな部下を目の前に、栗原は疲れきったかのように、ため息をついた。
「で? ……なんの用ですか?」
飛び蹴りを食らわすことを断念した聖が、栗原に問い掛けた。 そう元々、用があって来たのは栗原の方なのだから。
栗原は気を取り直して、話し出す。
「お前に、重要な話しがある。 ついて来い。高野も一緒で構わない」
「?」
意味が分からないまま、聖と高野は、栗原の後をついて行った。 そして、ある部屋に連れてこられた。
その部屋には既に、雪哉、陽介、純、師走、月、狩内の六人もいた。 そこに、聖と高野も加わり、八人。 更に栗原も含めて、ここにいるのは、九人だ。
栗原は、話し始める。
「お前らに、大切な話だ。 4チームの頂点争いに勝ってから、オーシャンの規模は、確実に大きくなった。 頂点になったことで、次々と小さな他チームが、オーシャンに加わってきたからな。 ──それでだ、聖、雪哉、陽介、純、お前らには、統括を手伝ってもらいたい」
全員、真剣に栗原の話を聞く……──
「つまりお前らには、リーダーになってもらいたい。 東のリーダーに、聖。 西のリーダーに、雪哉。 南のリーダーに、陽介。 北のリーダーに、純。 ──お前らにはそれぞれ、チームをまとめてほしい。 俺は中央を見る。そしてお前らも束ねる」
すると、高野、師走、月、狩内が問う。
「俺らは?」
「お前ら四人は、聖、雪哉、陽介、純を、それぞれサポートしてやれ」
その言葉に、納得したように高野たちは頷いた。
──こうしてブラック オーシャンに、総長を中心とした、4人のリーダーが誕生したのだった。
ブラック オーシャン・四天王制の始まりだ。
だがこのブラック オーシャンの4トップが、他チームにまで浸透するのは、まだ、先のこと……──
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