Chapter 1 【いつかの秋の日】

Episode 1 【黒人魚と黄凰】

【黒人魚と黄凰】



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 あの日の、あの季節の、真っ赤な紅葉こうようを思い出す……


 金色の紅葉こうようを思い出す……──


 全ては、あの秋に始まったの……──


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



──────────────

──────────

─────


──『なぁ國丘、お前どうして、そんな悲しそうな顔してるんだ?……――』 ──


 ──罪悪感にさいなまれながら、フラフラと街を歩いていた百合乃を引き止めたのは、黄凰の総長、“丸島”だった。

 丸島の問いには答えずに、百合乃はジトッとした目で、丸島を見ている……


「…………お前、大丈夫?」


 顔色が優れないまま歯をカチカチと鳴らして、百合乃は震えている。

 茫然自失しながら、フラフラと歩いていたのだ。他人に心配されるのも分かる。


「……黄凰…………」


「そうだけど……そんなに見るなよ……お前、可笑しいぞ」


「「…………」」


「おい國丘、聞いてるのか? 大丈夫かよ?」


 百合乃はまた黙り込んでしまい、何も話さなくなった。

 面倒臭そうにしながらも、丸島は一応問いかけてくる。

 ……──すると少しの間を置いてから、ようやく百合乃が口を開いた。そして、丸島を睨み付ける──


「……答えなさいよ――……」


「あ? 何をだ?」


「惚けないでよ! ……」


 声を荒らげて、百合乃が丸島に掴みかかった。

 丸島を睨み付ける百合乃の目からは、怒りが滲んでいる。

 丸島は当然、この展開に付いていけず、不思議そうに百合乃を見下ろしている。


「ねぇ、アンタたちのせいなのよね!? はっきり言ってよ!!」


「は? ……俺が何したって言うんだ?」


、アンタたちの仕業なんでしょう!! ……――」


 それを聞くと、丸島もようやく、百合乃が怒っている理由を理解したようだった。


「高橋のことか。噂は聞いているぜ?」


「だから! 惚けないでよ! どうせアンタの仕業よ!!」


 百合乃は丸島の顔面目掛けて、殴り掛かる──

 ……──だが、百合乃の拳は、すぐに丸島に受け止められた。


「誤解だぜ? 國丘 百合乃……──高橋の件、俺ら黄凰は一切、手を汚していない」


「信じられないわよ!!」


 気が立っているせいもあり、百合乃は丸島の言葉に、全く聞く耳を持たない。

 受け止められていない方の手で、百合乃はやみくもに丸島を叩いている。


「……面倒な誤解を受けたな……」


 一瞬、困った表情を浮かべる丸島。


 むやみやたらに叩いてくる百合乃……──丸島はその手を掴んで、百合乃を制止させた。


 受け止められた右手と、掴まれた左手。──両手の自由がなくなって、百合乃はようやく、弱気になり黙り込む。


「ようやく冷静になったか? もう一度言う。俺らは、“高橋の件には一切、関わっていない”」


「…………なら、誰よ……――――」


 丸島への怒りは一先ずおさまるが、代わりに百合乃はまた、悲しそうな表情に戻った。


「信じる気になったか?」


「……分かったわよ。悪かったわ……」


「國丘……まさか、謝れば俺がお前を許すと思うのか? 濡れ衣を着せられて、散々に叩かれた……──俺は結構、怒っているぞ」


 全く怒っているようには見えないが、丸島はそう言った。


「…………」


 百合乃はムッとして丸島を見る。


「そんな顔するな。台無しだな? ……」


「……どうしたら、許してくれるのよ?」


 ムッとしたまま、百合乃が問いかけた。


「そうだな? ──何がいいか……――――やっぱり、か?」


 そう言って、丸島はスッと百合乃に顔を近付けた……──

 手の自由もない状態……“キスされる”──


「ふざけないでよ!」


 手の自由がないから、代わりに足をグリグリと踏みつけてやった。


「……相変わらず、マーメイドの女は気が強いな……」


──キスは断念だ。


「そんな問題じゃないわ。最悪よ!」


「そう怒るなよ」


 丸島は百合乃の身体を引き寄せる。距離が近くなった。

 百合乃はそっぽを向く……


「一緒にメシ食いに行かないか? ――“高橋の件”……誰の仕業なのか、教えてやるよ」


 百合乃は“高橋の件”と言われて、興味を持った。


「……ウソじゃないでしょうね? 本当に教えてくれる?」


 すると丸島が、ニッと笑いながら頷いた──


****


 純の件の真相を聞く為に、百合乃は丸島の話しにのり、言われた通りに共に飲食店へとやって来た。


 椅子へと座り、百合乃は真剣な表情で丸島へと問いかける。


「それで? ……一体、誰の仕業なの?」


「まぁ落ち着け、メシ食いながら、ゆっくりと話そうぜ?」


 そう言って丸島は、百合乃に向かってメニュー表を広げた。


「…………食欲なんて、沸かない。早く教えて……」


「まず食えよ。食わねぇーと、教えねぇぞ」


「…………」


 百合乃は、しぶしぶと頷いた。


「好きなものを選べ。金は俺が出す」


──と、その時……


―「えっ! えっ! ホンマですか?! 今日は総長が、金、払ろうてくれるん?! よっしゃ!」


―「まじスか? まじッスか?! ぅわぁ~……助かるわぁ。俺、金欠なんで」


 聞き慣れた声だ。……嫌な予感がして、丸島は振り返った……──すると案の定、そこにいたのは……


丸「どうしてテメーらがいるんだよ?! 吉河瀬に花巻! ……」


 そうそこには何故か、吉河瀬と花巻がいる。


花「なぁ~に言ってんスか? 総長、この店、最寄りですもん!」


吉「そりゃ、バッタリ会ったりもしますわ!」


丸「……最悪だぁー……」


 何か、丸島の計画が崩れ始めたようであった。

 そして更に、丸島に追い討ちをかける二人……──


花「あっ! もしもぉ~し、東藤さぁ~ん、今すぐ来て下さいよ? 総長の、おごりですよぉ?」


 当たり前のように、東藤のことを、電話で呼びやがった花巻。

 そして数分後……──


東「総長、今日は頼みましたよ? ご馳走さまです」


 東藤まで来た。しかも、おごってもらう気満々だ。


丸「……呼んでねーよ!」


花「東藤さぁ~ん、こっちこっちぃ~!」


吉「はよ座りぃ?」


 東藤を手招きする花巻と吉河瀬。

 東藤も座ろうとしたのだが……──


東「あっ総長、もう少し、向こうに座ってくれませんか?」


丸「ん? あぁ~そうだな……」


東「ありがとうございます」


丸「……――――」


 東藤に言われ、丸島が席を詰めた。

 ──そうして配置は……──百合乃の右隣、吉河瀬。百合乃の左隣、花巻。百合乃の真正面、東藤。百合乃の、丸島……と、なったのだった。


丸「何で俺が、一番どうでもいい席なんだよ?!」


 こうして何故か百合乃は、黄凰の主力メンバーに交ざったまま、食事をすることに……


花「なに食おうかなぁ~……」


吉「迷ったら高い方や!」


東「そうするか。………総長、太っ腹ですね」


丸「“高い方でいい”なんて言ってねーよ」


花「黒人魚ちゃんには優しいんスか? 総長のケ~チ! ア~ホ!」


丸「黙ってろ!」


花「あ~い。かしこまりやしたぁ~!」


吉「そんじゃ、高い方な!」


 ガヤガヤと面倒そうな部下たちが勢揃いしており、埒が明かない。


百「アンタ丸島、結構苦労してるのね」


 つい、同情の目を向けている百合乃。


丸「今更どうでもいい……もう慣れてる」


百「アンタがアホなの? それとも、部下が強烈なの?」


 サラッと毒を吐いた百合乃。

 百合乃の発言に、“カチン”とくる丸島。


吉「確かに! ウチの総長は、少し抜けとるところあるで!」


花「あらら~? 吉河瀬、イコールは、“総長がアホ”に賛成かぁ? ……──けど、まぁな!」


東「……お前ら二人花巻と吉河瀬も、強烈だけどな……」


 ──するとその時、丸島がスッと立ち上がった。


「「「「……?!」」」」


 百合乃を含めた4人の視線が丸島へ。


丸「……タバコ吸ってくる」


 そうして丸島は席を立ち、タバコを吸いに行った。


「「「「…………」」」」


 残された四人は、ポカンとしている。


百「アイツ丸島大丈夫? いじられすぎて、お腹でも痛くなったんじゃない?」


吉「まさか! そんなことアラへん」


百「それにしても、いじりすぎよ。……丸島への忠誠心はないわけ?」


 すると、百合乃の問いに対して、さも不思議そうに、首を傾げる三人。


吉「忠誠心……あるわ。当たり前や。なぁ?」


 花巻と東藤も、〝当たり前〟と言わんばかりに頷く。


花「総長のこと信頼してるから、いじる」


百「…………はい?」


 呆れた様子の百合乃。けれど他の二人も、花巻の言葉に頷いている。


吉「なに言うても、あの人丸島は、本気で俺らを怒ったりはせぇへん。……」


東「器がある証拠だろう」


花「そうそう。“紫王の柳”みたいなのとは、話が違うッつーこと」


吉「仮に黄凰の総長が柳やったら、俺、ついていかへんで? 何だかんだ言って、ウチの総長は、お人好しやからな! 柳なんてアカンわ! 恐怖政治や!」


東「なに言っても結局、俺らが信頼しているのは、自分たちの総長だ」


百「へー……。アイツ、意外に信用されてるのね」


 すると、淡々と昔を思い返しながら、東藤が言う──


東「総長に信用がなかったら、今の黄凰はないだろうな」


百「どういう意味?」


東「黄凰は、ブラック オーシャンに負けた。けど、オーシャンの仲間にはならなかった。あくまでも、“黄凰のまま”。総長に信用がなかったら、負けた時点で、部下も失っていただろうからな。部下がついて来なかったら、黄凰なんて、続けられなかった」


吉「まぁそんなこと言うたら、紫王もやけどな……柳についていく意味が分からんわ!」


花「かつて、8代勢力と呼ばれたのは、栗原 聡、稲葉 聖、白谷 雪哉、星 陽介、高橋 純……──そして、ウチの総長と、紫王の柳、白麟の上柳ッスよ? やっぱりオーシャンに負けても、黄凰、紫王、白麟の信用は強ぇんだ」


吉「けどな、コレ裏話やで? 白麟の上柳は、栗原の仲間になるんかを、迷ってたんや……──そんな矢先に、栗原が姿を眩ます。そんで結局、白麟のまま──……」


 ──そう、そのタイミングで栗原が姿を眩ましたことも、黄凰、紫王、白麟の存続を助けた要因となったのだろう。


東「上柳か……――アイツ今回、寝返る気じゃねぇだろうな?」


 百合乃は三人の話を、じっと聞いていた。

 自分が、黄凰の中にいる事に、違和感が沸く。そして自分のいる空間の中で『寝返る』など何だのと、彼らが話している事にも。──マーメイドは解散しているとは言っても、百合乃は完全にオーシャン側の人間なのだから。良いのか悪いのか、“女であるから、あまり敵視されていない”のだろう。


 ──そこに、丸島が帰って来た。


丸「國丘、気分はどうだ?」


百「普通……」


丸「“普通”ならいいだろう。約束通り、教えてやるよ。高橋をやった奴らをな……──」


百「……」


 百合乃は黙って、じっと丸島の言葉を待った。


丸「高橋をやったのは、だ」


百「……その情報は確か?」


丸「あぁ。本当のことだ」


 百合乃の拳が、怒りで震えた。

 〝許しはしない〟と、体の底から沸き上がるような、強い衝動を感じる──


丸「で? お前、そんなこと聞いて、どうするんだ?」


百「どうするって、当たり前じゃない!」


丸「何が当たり前だ。紫王を潰すッてか?」


百「……それはぁ……――」


 ──〝答えられなかった〟 ──


丸「出来ねぇよな? マーメイドは解散した。──そして、親のすねかじって、“國丘家”の力を使う訳にもいかねぇ……そうだろう? 今のお前には、後ろ楯がない。紫王を潰すなんざ、戯れ言だ。夢のまた夢……」


 そう、感情的になって動こうとも、それさえも出来ない。

 今の自分には、紫王に張り合えるだけの力など無いのだ。その、無力さに気が付く……──

 情けなくて、悔しくて、丸島のことを見れなかった。


丸「お前には、何も出来ねぇ。所詮お前は、運命に翻弄されているだけのだ」


 百合乃はただ俯く。先程から、言い返せる言葉が見付からなくて……──


丸「“総長”だの何だのと……──お前、似合ってねぇんだよ。無力な奴は、下がってろ。 この戦争、テメーの出る幕はねぇよ」


 ズキズキと、胸が痛んだ。 そう、今の自分は、限りなく無力に近くて……──

 この場所が辛くて、逃げ出そうと立ち上がり、背中を向けた。


丸「…………おい國丘! テメーどこ行くんだよ? メシ食えよ」


 丸島の言葉を無視して、百合乃は外へと出て行ってしまう。


「「「「…………」」」」


 残された四人。……丸島へと突き刺さる、三人からの冷たい視線。


吉「ぅわ~、きついわぁ~……総長、なぁに女の子イジメとるんや?!」


花「あ~あ! 可哀想。きっと泣いちゃいますよぉ? 総長のバァーカ! 辛口現実主義者ぁ!」


東「何を思って、あんなに責めたんですか? 女には優しくして下さいよ? 見てる方がもどかしくなる……」


丸「は? 俺は別に責めてない。思っていることを言っただけだ」


花「思っても普通は言わないッスよ? 特に女の子には……総長やっぱりバァーカ!」


吉「そやそや! 総長なんてアホや! マヌケや! よ、謝ってこんかい!」


東「総長、行ってらっしゃ~い。早く、謝って来て下さい」


 部下たちから、大ブーイングだ。


丸「あぁ゛~! うるせーな! 分ぁかったからよ!!」


 そうして結局、部下たちの言う通りにする丸島であった。


****


 店の裏庭の、紅葉こうようで黄色く染まった、イチョウの木……──

 イチョウの木に背中をつけたまま、百合乃は地面へと座り込んだ。

 ──先程の丸島の言葉、確かに間違ったことは、言っていなかったのかもしれない。けれど、胸がズキズキと痛むのだ……──


「國丘、いきなり出て行って、何のつもりだ?」


 少しの間、俯き続けていた百合乃が顔を上げると、そこには丸島が立っていた。


「あんたのせいよ。……気分、最悪」


「は? 本当のことを言ったんだよ。嘘ついても、仕方ないだろう」


「本当のことって何よ? ……『下がってろ』とか、『出る幕ない』とか……酷い」


「だってそうだろう? 出る幕ねぇーよ……」


「うるさいわね! 何が分かるのよ!!」


 ムキになり、百合乃は声を荒げて立ち上がった。


 三人に『謝ってこい』と言われて百合乃の元に来たけれど、丸島は謝る為に来た訳でもなさそうだった。


「知らねーよ。けど、もう一度言う。女は下がってろ。出る幕じゃねぇんだ」


「女だからってバカにされるの、ホント嫌いなのよ! 舐めないでよ!!」


「仕方ねぇーだろう? テメー、女なんだよ」


「黙れ!!」


 先程同様、顔面めがけて、拳を飛ばした──

 そしてやはり、その拳は簡単に受け止められた。

 受け止められた手を振りほどこうとするが、ビクともしない……──


「中途半端な奴だな。男みてーに威勢は良いが、他はウジウジしやがって、結局お前は女だ」


「うるさい! ……離してよ!」


「振りほどいてみろよ?」


 力を込めるが、やはり、振りほどけない──


「認めろよ。確かにお前は、マーメイドの総長だった。喧嘩だって出来る……けどな、お前だって“一人の女”だ」


 すると、手を振りほどけないまま、抱き寄せられた。


「……ちょっと……――」


 抱き寄せられたまま、百合乃は困惑の表情を浮かべている。


「もういいだろう? そろそろ、楽になれ。家の肩書も総長だった肩書も、もう全部、捨てろ」


「…………――」


「お前は、か弱いただの女だ。女は、黙って守られてりゃいい」


 ──家の肩書、総長の肩書……それは、自分百合乃を縛り付けている鎖。

 ──自分百合乃が、楽になれない理由。

 責任に囚われて、苦しいだけ……──

 ──そう本当は、こんな肩書、さっさと捨てたかった……――


「高橋のことだって、國丘のせいじゃねぇ。こうなる運命には、誰も逆らえなかった筈だ」


 ──〝敵対する男の言葉に、確かに癒されてしまったのは、不覚であっただろうか? ……〟──


 ……──そして耳元で囁かれる、運命を左右する言葉……──


「國丘、俺の女になれ」


 百合乃は耳を疑い、抱き寄せられたまま、その目を見張っている。


 眩しい程、黄色く染まったイチョウの葉が、ヒラヒラと舞っていた……──



****

━━━━【〝YURINOユリノ〟Point of vi視点ew】━━━━


 私の心を楽にしたのは、どうして、コノ男の言葉だろう?


 まるで、運命のイタズラ……


 “秋”の季節は、また私を惑わすつもり……


 あの人に恋した、いつしかの秋が頭に浮かぶ……──


 真っ赤な紅葉こうようを思い出す……──


 あの人は、私を愛してはくれない……──


 そう、愛してはくれないの――……


 あの人を求める度に、私の心は壊れた。


 全てを壊して、過ちを犯した……


 記憶の中の、真っ赤なモミジが、消えてゆく……──


 代わりに私の瞳に映ったのは、今年の秋の風景……黄色いイチョウの葉……──


 きっと、何もかも、変わってしまう。


 あの日の秋には、もう戻れない──



────────────────

───────────

───────


****


 ──この日ももう日が沈み、夜が訪れた。

 百合乃は丸島と共に、黄凰の溜まり場の中の一室にいた。


「──その“呼び方”、止めろよ」


「なら、なんて呼べばいい?」


「名前で呼んで構わねぇ」


「…………」


 〝名前? ……〟百合乃は首を傾げる。


「は? お前もしかして、俺の名前、知らねーのか? ……」


「……“丸島”」


「それ名字だろうが。知らねーのか?!」


「知らないわ。自意識過剰ね?」


「はぁ? 普通知ってるだろ! 俺は黄凰の総長だぞ……」


「だから、知ってるわよ。“丸島”でしょう?」


「だから、“名前”だよ!」


「知らない」


「「…………」」


 シレッとしている百合乃と、ポカンとしている丸島。──そうして丸島は、不機嫌そうに視線を反らした。


「…………“丸島 英二マルシマ エイジ”」


「あっ、なんだか、聞き覚えがある気がする……」


「当たりめぇーだろ!」


「だから、自意識過剰?」


「…………もういい。とにかく、俺のこと名前で呼べよ」


「……うん」


 ──二人きりの一室で、百合乃はソッと抱き締められて、キスされた……──


 窓からは、秋の日のイチョウの葉が覗いている──


 ──舌が絡まる。


 ──髪を撫でる手……


 ──ベッドへ倒されていく身体……──



 ──〝あの日の赤いモミジが、散っていく……〟――



 ──丁寧に脱がされていく服。……──飾るモノは無くなって、ただ、無防備な姿になった。

 同じように、服を脱いだ男が、百合乃を見下ろす……

 紫王や白麟に並ぶ、巨大なチーム、“黄凰”を率いる総長……──“丸島 英二”。──“稲葉 聖”とは、真反対の位置にいるであろう、この男……──

 この男は百合乃にとって、重い肩書を忘れさせてくれる存在──


「百合乃、一緒にいこうぜ? ……――」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ──そう、一緒に果てよう……

 その先に、何かが見えるかもしれない――……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「連れていって」



──〝何もかも分からなくなる、最果てまで〟──



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 あの人は、いつだって、私を残していなくなる……──この人なら、私を置いていかないかな……? ……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「……百合乃を苦しめるモノは、俺が全部、ブッ壊してやるよ――……」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ……──本当にもう、あの秋の色を、忘れる時……

 ──果てと同時に、あの秋の色は、消え失せた……──

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



─────────────────

───────────

──────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る