第28話

(って……なに納得してるの、私)



きゅっ


思考を正そうと、下唇を噛み締める。


その音に気づくはずがないのに、同じタイミングで。香月雅は私に振り返り、柔らかい笑みを浮かべた。



その笑顔は……ずるい。



せっかく香月雅と壁を作ろうとしているのに、作りづらくなっちゃう。このまま仲良くしてもいいかなぁって思っちゃう。



(あぁ、流されてるなぁ。私)



こうやって女子の弱いところを的確に突いてくるあたり。やっぱり香月雅は、危険な男だ。



「あ、雅く〜ん。さっきはどうも。また明日ねぇ」


「うん」



(……さっき?)



シューズの色は二年生。香月雅は、先輩と何してたんだろう。


ハテナを浮かべる私だけど。さっき香月雅が言ったことを思い出す。



『ちょっと野暮用』



あぁ、野暮って……そういうこと。


つまり、ホームルーム後に教室を離れていたのは、女子の先輩といかがわしい用事があったから……ってわけだ。



(……バカみたい)

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