一章 月の巫女
第16話
あたしたちが謁見の間の前まで来るとドアの両側に騎士さんらしき男性が二人佇んでいた。
アルさんは騎士さんたちに声をかける。
「俺は第二王子のアルブレヒトだ。今日は陛下と王妃陛下に謁見をしにこちらまで来たんだが」
「あ。アルブレヒト殿下でございましたか。いつも、妖魔退治で王宮にいらっしゃるのは珍しいですが。陛下と王妃陛下はもうこちらにいらしています」
「そうか。ちなみに謁見の時には陛下と王妃陛下、俺とこちらの女人以外は立ち入り禁止にしてほしい。内密の話があるんでな」
「わかりました。では、中にお入りください」
左側にいた騎士さんが受け答えをした後に右側にいた騎士さんと二人でドアをゆっくりと開ける。
目の前が眩い。それもそのはずだった。
深みのある紅の絨毯は毛足が長くふかふかでピンヒールを履いたあたしやブーツを履いたアルさんの足音を吸収してしまう。
壁も白い大理石で天井には綺麗な美人の女性や筋骨隆々なたくましい男性の活躍などがカラーで描かれている。
周りには金箔が使われていたりして豪華で気品漂う雰囲気だ。
奥まった所にこれまた金銀がふんだんに使われた玉座に座る中年とおぼしき男性と隣の小さな玉座と同じくらい豪華な椅子に座る超がつく美女が目に入った。
「ミヅキ、玉座に座っておられるのが国王陛下で隣の女性は王妃陛下だ。とりあえず跪け」
小声で言われたがあたしは小さく頷くだけにしておく。
アルさんもそれ以上は言わずに片膝をついて右手を胸の前に当てるポーズで頭を下げた。
あたしも片膝をついたポーズで座ろうとした。
けど、アルさんに小声で注意された。
「…あのな。俺と同じ格好でやらんでいい。とりあえず、膝を曲げてドレスの裾を摘んで頭を軽く下げておけ。片手は胸に当てておいたらいい。言う通りにしておいたら失礼にならんだろう」
後でマナーなども教えないといけないなとアルさんはぼやいた。
仕方なくあたしは言われた通りに膝を軽く曲げてドレスの裾を片手で摘み、頭は深々と下げる。
片手も胸の辺りに当てて陛下ー王様の言葉を待った。
「ふむ。遠い異界からよう来られた。あなたが当代の月玉の巫女殿だな。アルブレヒト、でかしたぞ」
陛下はまず、アルさんにそう声をかけた。
「もったいないお言葉ありがとうございます。陛下、王妃陛下におかれましてもお元気そうで何よりです」
「アル。ここには知った者しかおらぬ。楽にしてかまわない」
陛下のお言葉にアルさんは下げていた頭を上げた。
月の姫と紅の王子 入江 涼子 @irie05
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